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啓太の一日 ( 茶摘み )

 
 
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「 啓太、啓太、早くおいでなぁ 」
「 あんまり遅いと置いて行くよ~ 」
「 まっ、待ってぇな、今行くから 」
啓太を待つ母のいでたちと言えば
絣の着物にもんぺを履き、頭は姉さん被り
たすき掛けに背負子を担いでいた
啓太が漸く家前に出て行くと
丁度向かいの家からスミおばさんが出てきて
                     母に声を掛ける
「 お出かけですか? 」
「 はい、宗右部ぇさん所の茶摘みの手伝いに 」
「 啓ちゃんも一緒に行くの? 」
「 うん 」
「 宗右部ぇさんの畑までは遠いから
                しっかり歩くんやで 」
「 うん、いってきま~す 」
村外れから伸びる道筋には民家は一軒も見当たらず
遠くに氏神神社の杉木立が見える他は
               幾つもの田畑が広がっていた
時折吹く風に砂埃の舞う道を
        啓太と母が手を繋いで歩く様は
時代劇の旅人を見ている様でもある
啓太は母が担いでいる背負子が気に成っていた
「 母ちゃん、背中のそれ 何に使うんや 」
「 これのことか、帰りに宗右部ぇさんに
       野菜を沢山わけて貰うから
           其の為に持って来たんや 」
「 そんなら、今は僕が乗ってもええか 」
「 乗りたいんか? 」
「 うん 」
「 それなら少しだけ 」
「 うん 」
母は啓太を背中合わせに背負子に縛ると
「 よいしょ 」
「 あ~っ、高い 高い 」
日差しはやや強いが 時折吹く風が心地よかった
見渡す田畑は緑に輝き
       傍を流れる小川の音に耳を傾け
ふと足元の影に目を遣ると
       母の上ではしゃぐ自分の姿が大きく見え
啓太の中で罪悪感めいた気持ちが湧き上がった
「 母ちゃん、もう降りるっ 」
「 えっ、もういいんか? 」
「 うん、降ろして 」
啓太は背負子から降りると再び母と手を繋ぎ歩き出した
氏神神社の杉木立を抜け 少し小高い丘を過ぎると
「 啓太、ほらあそこに見えるのが茶畑やで 」
「 うわっ、広いんや 」
「 もう少しやから がんばって歩きなっ 」
「 うん 」
茶畑に着くと既に何人かの手伝いの人達が集まっていた
暫くすると 皆に藁の編み篭が配られ
母は啓太に編み篭を手渡しながら
「 啓太、今からお茶の葉を摘んで貰うけど
    一芯二葉言うて真ん中から二枚までの
            柔らかい所だけ摘むんやで 」
「 うん、判った 」
「 絶対 緑の濃い硬い葉っぱは入れたらあかんよ 」
「 判ったって、大丈夫やって 」
いざ茶摘を始めると背の低い啓太は
              中々の苦戦を強いられる
柔らかい若葉は茶の木の中ほど天辺に有り
                 手が届かないのである
啓太は 背の低い茶の木を選び摘み取ってゆく
編み篭に三分の一ほど溜まった頃であろうか
タン、タン、タン、タン、タン
耕運機がリヤカーを引きながら近づいて来た
「 みなさ~ん、休憩にしましょうか 」
啓太は編み篭を担いで一目散に母の元へ走った
「 母ちゃん、こんだけ摘めた 」
「 どれ、がんばったね 啓太 」
母は啓太の頭を優しく撫でながら
「 あっちで おにぎりでも頂こうね 」
「 母ちゃん、母ちゃんの摘んだ分はどれ? 」
「 ん!これやけど 」
「 わっ、 いっぱいや 」
「 僕のはすっごい少ないやん 」
「 啓太は母ちゃんの言った通り
   ちゃんと一芯二葉が取れたんやから
      其れで十分、贅沢言うたらあかんよ 」
「 さっ、休憩、休憩 」
大きな柿の木の下に茣蓙が敷かれ
       数人が既におにぎりを口に運んでいた
啓太の視線は其の中に居る
         同い年位の女の子に注がれていた
いや、正確には女の子の持っている
         ぼた餅に注がれていたのである
母はいつまでも茣蓙の上で立ち尽くす啓太に声を掛けた
「 どうしたんや? 」
啓太は小声で「 ぼた餅 」とつぶやく
「 なんや ぼた餅が欲しいんか 」
「 すいませ~ん うちの子にぼた餅を頂けますか 」
「 はい、どうぞ どうぞ 」
啓太は軽く会釈し
 差し出されたお重からぼた餅を1つ取り出すと
「 ありがとう 」
「 いえいえ、どういたしまして 」
「 僕、今日はお母さんのお手伝い 」
啓太は ぼた餅をほう張りながら小さく頷く
休憩が終わり 茶摘みを再開するも
啓太に摘み取れるお茶の葉は中々見つからない
啓太はつまらなそうに土手に腰掛
辺りの草をむしっては投げ、むしっては投げ
「 あっ 」声が漏れる
自分の傍らでシマヘビが穴に入ってゆくのが見て取れた
啓太はヘビのしっぽを掴み引っ張ってみるが
ヘビも負けじと どんどん穴の奥に入って行く
ドスッ!!
啓太の手が滑り しりもちを付く啓太から
見事にヘビは逃げ果せた様である
啓太はしりもちを付きながらも
又、新たな遊び相手としてトノサマガエルを見つけ
カエルに合わせてピョンピョンと後を追いかけてゆく
何が楽しいのかすっかり夢中に成り
最早、茶摘みの事なぞすっかり忘れてピョンピョン
「 啓太~、啓太~ 」
母の声が聞こえた
「 なんや~っ 母ちゃ~ん 」
啓太は立ち上がり
    茶の木の上にひょっこりと顔を出し辺りを見回すと
「 そんな所に居てたんか 」
「 そろそろ帰り支度をするでぇ 」
「 うん、手ぇ洗ってくる 」
啓太は近くの小川で手を洗うと
         半ズボンの裾で手を拭き
「 母ちゃん、帰るんか? 」
「 宗右部ぇさんの家で野菜を貰うてから帰ろうね 」
宗右部ぇさんの家の納屋には
南瓜・胡瓜・茄子・ジャガイモ・トマトと言った
                    野菜が並べられていた
母は其の野菜を麻袋に詰め込み背負子に括り付ける
つまりは今日の茶摘みの対価として野菜を頂くのである
「 さっ、啓太帰ろうか 」
「 うん 」
・ ・ ・
其の夜 啓太は夢を見た
茶の葉の上でとぐろを巻くヘビと対峙する夢であった
「 う~ん、う~ん 」
寝苦しそうに うなる啓太に「 暑いんか 」
母はウトウトしながらも啓太の寝息が落ち着くまで
ずっと枕元でウチワを扇ぎ続け
            その手を休める事は無かった
 

 

 

 

 

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