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啓太の一日 ( 野良犬 )

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それは啓太が まだ小学校に上がる前の事であった
父の仕事で 村外れの天理教の神社に父の手を引いて向かった時のこと
[ 父 ] ・   「 もう お地蔵さんの所まで来たか 」
[ 啓太 ] ・ 「 なんで わかるんや~ 」
[ 父 ] ・   「 風と樟の匂いかな 」
啓太は別段 風も吹いていないと思いながら 辺りの匂いを嗅いでみるのだが
[ 啓太 ] ・ 「 風も無いし 草の匂いがするだけやー 」
[ 父 ]  ・   「 啓太には わからんか~ 」
そんな会話の最中に 啓太が突然「 ヒッ 」と声を上げ 父の背後に回り込む
[ 啓太 ] ・ 「 とうちゃん 野良犬や 」
        「 誰にでも噛み付く野良犬が ウロ ウロして居るって
                         かあちゃんとスミおばさんが話とった 」
父は白い杖を左右に振りながら「 シッ シッ 」と野良犬を追い払おうとするのだが
野良犬は父の動きを見透かしたように 杖を持つ手に噛み付いた!
その様子を 真近で見ていた啓太の心臓は止まんばかりのものである
しかし 次の瞬間 父は啓太を更に驚愕させる行動をとって見せた
父は矢俄 野良犬の頭を抱え込むと 噛まれた自分の手を思いっきり口の中へ突っ込んでいく
野良犬は堪らず「 ゲー ガー 」「 グァー 」と吐き戻しながら
農業用水に足を滑り落とし 尚も「 ゲ~ 」と声を洩らしながら
見定まらぬ足取りで走り去って行った
今 啓太の目前で起こった出来事は 信じがたい程の物であったに違いない
[ 啓太 ] ・ 「 とうちゃん 手痛ぁないんか~ 」
[ 父 ] ・ 「 だいじょぶや 手を洗うさけー 川まで連れてってくれ 」
啓太は興奮覚めやらぬ様子で 父の手を包むように持ちながら 川岸まで連れて行くと
川の水でゆっくりと父の大きな手を 啓太の小さな両手で洗い流していった
父の右手の親指は仕事柄 びっくりするほど大きく 啓太の指を二本足してもまだ足りない
そんなことに思いを馳せながら 
先程 野良犬に噛まれた所に目をやると 血は出ていないが 歯型がくっきりと付いていた
心配そうな啓太をよそに 父はすっくと立ち上がり「 早よ行かな 宮司さんが待っとる 」
父の言葉に急かされる様に 啓太はあまり軽くも無い足取りで歩きだした
やがて 天理教の宮司さんの家の玄関先に着くと
[ 啓太 ] ・ 「 こんにちはー 」
声を掛けて しばらく待って居ると 家の奥の方から 宮司さんが出て来た
[ 宮司 ] ・ 「 よう来なはった 今日は啓太がとうちゃんを連れて来たんか~ 」
[ 啓太 ] ・ 「 とうちゃん さっき 野良犬にかまれたんやー 」
[ 宮司 ] ・ 「 だいじょぶですか 角川さん どこ噛まれたんですか 」 
啓太は父の手を持ち上げると 宮司さんの目の前に差出して「 ここ 」と指差して見せた
[ 宮司 ] ・ 「 おお ! 歯型がくっきり付いているじゃないですか 」
        「 今日は もう 休まれた方がいいんじゃないですか 」
[ 父 ] ・ 「 ご心配なく どうぞ仕事をさせてやって下さい 」
[ 宮司 ] ・ 「 そうですか でも 手が痛くなったら すぐおっしゃて下さいね 」
[ 父 ] ・ 「 啓太 父さんの仕事が終るまで待って居られるな 」
[ 啓太 ] ・ 「 うん 」「 神社の裏で 遊んで待ってるから 」
いつしか時間を忘れ 遊びに没頭する啓太の耳に いつの間にか仕事を終えた父の声が聞こえた
「 啓太 家に帰るぞー 」その声に素早く反応して 啓太は父の居る玄関口に駆け戻った
家に帰る道すがら「 とうちゃん 手 もう一回見せて 」と 父の手をまじまじと凝視した
時間が経った為か 噛まれた痕が 赤いアザの様に浮き出ていた
啓太は改めて 父と野良犬の格闘を 映画のスローモーションの様に思い起こし 身震いした
この出来事以来 啓太にとって父は絶対的な存在で有り 自分だけが知る父の強さでもあった

 

 

 

 

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