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啓太の一日 ( 山村 )

2

「 カッコー カッコー 」
普段聴き慣れない 鳥の声で目を覚ますと
少し湿った谷川の空気にカッコウの鳴き声が響き渡っていた
要訳 五感が目を覚ますと 先ずは 強い杉の香りが啓太の嗅覚を刺激し 
次に 視覚が捉えた 部屋の様子はいつもの風景とは全く違うものであった
徐々に鮮明に成る記憶を辿れば 昨日の内に
            この場所( 母ちゃんの実家 )に来ていたのだ
記憶を更に遡れば 此処に来ることは 夏休みの少し前に決まっていた事で有った
啓太は 初めての遠出に想像を膨らませ ワクワクする気待ちを抑えきれず
「 母ちゃん 何所行くんや 」
「 何時行くんや 」
「 どんな所なんや 」と
旅行に出かける日まで毎日の様に 母に何度も何度も聞くのである
傍から見れば 相当うっとおしいと 思うのだが
母は 其の都度 啓太の問い掛けに 丁寧に答えていた
いよいよ旅行当日
高揚する気分も手伝ってか 見る物 聞く物全てが新鮮であった
何時も目にするオレンジ色の電車に乗り 大きな駅に着くと
乗り換えの電車は クリーム色の如何にも速そうな車両の特急電車に乗り込んだ
「 母ちゃん 窓開けて良い 」
「 この電車の窓は開けへんのや 」
( なんや つまらん! 窓の開かん電車なんてつまらん! )
「 母ちゃん 駅弁食べるから出して~な 」
「 もう駅弁食べるんか 今 電車に乗ったばかりやないか 慌ただしい子やねー 」
「 駅弁は初めてやから どんな味がするか 早よ食べてみたいんや 」
母は駅弁の包みを解きながら「 お父さんも 今 食べる? 」
「 俺は未だ 良いから 啓太だけ先に食わしてやれ 」
「 はい 啓太 」と差し出された駅弁の 折詰に捲かれた金色の紐に 先ずは目を奪われ
啓太は 徐に紐を解き 駅弁のふたを少しづつ開けてみた 
やがて垣間見る駅弁の中には 鮮やかな赤や黄色のおかずが所狭しと並んでいる
どれから 手を付ければ良いのかと考えながらも 先ずは ごはんに箸を付けたのだが
「 かあちゃん ごはん ! 堅くて取れん 」
「 啓太の お箸の使い方は まだまだやねー 」「 どら 貸してごらん 」
母は ご飯を押し型通りに 一個づつ解すと「 はい 」と 啓太に手渡した
啓太は嬉しそうに駅弁を抱え 一口食べては「 これ 美味しいね 」
また一口食べては「 これも 美味しいね 」と言いながら ついばむ様に食べてゆく
隣に座って居る父は そんな啓太の気配に 腕を組みながらも含み笑いを漏らしていた
やがて 小さな手でついばまれた駅弁は 米粒一つも残さず 綺麗に食べ尽くされた
「 啓太 降りるよ ! 」
「 あれ ・・・ 」お腹が膨れた途端 啓太は いつの間にか寝てしまって居た
またもや乗継の様である 啓太は素早く白い杖を父の手に添えると 右手で父の左肘を抱え込む
三人で出かける時の役割分担は自然と決まっていた 父は行き交う人の邪魔にならぬ様
あまり大きな荷物が持てない分 母が荷物を抱える事が多かった 啓太はいつもリュックを背負い
父の誘導係を自然と身に付けていた 例えば ホームや階段の手前で必ず一度立ち止まる事や
一緒に歩くときは なるべく父を壁沿いに誘導すると言った事が 当たり前の事に成っている
特急電車を降り立った三人は 駅の一番外れに有るホームまでゆっくりと歩き出した
「 次の電車に 乗り遅れたりせぇへんかー 」
「 だいじょぶや 電車が来るまで 後一時間以上は有るし 」
「 ホームで駅弁食べる位の時間は十分に取れるよ 」
ホームにたどり着くと 其処には中年の夫婦であろうと思しき二人連れの外は
啓太の家族のみ と言った具合で 閑散とした佇まいであった
人気の無さの所為なのか ホームには枕木のタールの香りが漂っていた
母は 父の腰かけたベンチの上に 早速 駅弁を広げるとそれを
父に手渡し 自分も食事に取り掛かっていた
照り付ける夏の日差しは 辺りにかげろうが立ち上がる程であったが
              時折吹く風は 涼しげに暑さを忘れさせてくれる
やがて 小一時間も経ったであろう頃
       一両編成の緑とうす緑のツートンカラーに塗られた電車がホームに入ってきた
電車の窓が全て開け放たれているのを見つけた啓太は
            一目散で車内に入り込むと 窓にへばり付く様に座席に陣取る
「 啓太 そないに急がんでも 席はいくらでも空いてるで 」
「 窓の外が見たいのは解かるけど 靴を脱いで座っときなさい 」
「 は~い 」
プァ~ 電車は警笛と共に小刻みに震えながら ゆっくりとホームを後にする
緑の田園風景に影を落とす一両編成の電車と共に 啓太の気持ちもまた走っている面持ちである
軽快に電車に揺られ 幾つかの駅をやり過ごし、要約目的地の駅に降り立っと
「 啓太、今度はバスに乗るんやで 」「 うん 」
停留所には既に ややクリームがかったボンネット・バスが一台 止まっており
啓太は走り込む様にドアに近づいたのだが ドアのステップが啓太の歩幅より少し高い
啓太が少し躊躇してる間にも 母ちゃんと父ちゃんに追いつかれてしまう
「 啓太 何してるの? 」
「 うん、脚があんまり届かないんや 」「 ハハハ、そうなんか 」
母ちゃんは父ちゃんに荷物を預けると 啓太を抱え「 ホレ 乗れたねー 」
バスの運行本数が少ない為 定刻に成るまでの間しばらく バスの座席に座って待つことと成った
やがて定刻どうり バスは大きく震えながらエンジンが掛かると ゴーと音を出して走り出す
しばらく眺めていた田園風景は少しづつ山間の風景にうつろい
バスは道幅いっぱいの山道を上がって行く
杉木立から漏れる日差しを眺めながら 啓太はバスの窓から視線を下に向けるやいなや
「 ヒッ 」思わず 隣に座る父ちゃんにしがみ付いた
「 どうしたんや 」
「 う、うん 」「 父ちゃん、このバス 山から落こちちゃわない 」
「 う~ん 大丈夫だろ 」
この時 啓太の目に焼き付いた風景は 遥か眼下に見える谷川以外 何も目に入る事は無く
気にも留めない父の言葉に相槌も打てず
    啓太は最後までバスの窓を覗く事も無く 車内で息を殺し じっと終点まで過ごした
プシュー
「 啓太 バスは此処まで 後は歩くんやで 」
「 うん 」
あの恐ろしい眺めから開放される想いで 足早にバスを降りる啓太の姿が有った
停留所から脇に有る山道に入ると
          左手はごつごつとした岩肌で 右手には杉木立が見て取れる
少し歩いた場所に 山水が小さな滝のように流れていた
「 啓太 喉渇いたやろ 其処の水は飲めるさけ 水筒のコップで飲んでごらん 」
啓太は 跳ねる水しぶきから身をよじる様に手を伸ばすが
     ややもすれば水の勢いにコップを落としそうに成る位 水が豊富にコップに入り込む
啓太は コップに満たされた山水を 躊躇無く一気に飲み干すと
「 母ちゃん この水 物凄く冷たくて美味しい! 」
「 そやろー これも山の恵みのひとつのなんやで 」
「 啓太 父ちゃんの分もついでやってや 」「 うん 」
「 おぉー 暑いから 冷たさが喉に よ~ 染み渡るなー 」
皆は しばらくの間その場所に佇み 水の音、鳥の声、風の香りにゆっくりと浸っていった
母「 さっ そろそろ腰を上げんと 」
歩く事 暫し、風景が少し開けて 集落の屋根が垣間見えた
「 さあ 着いたよ 啓太、あれが母ちゃんの生まれたお家や 」
母の指差す先に目を遣れば なるほど一軒の民家が見える
要約 たどり着いた玄関先は 頑丈そうな板戸とガラス戸が二重に組み込まれていた
「 ただいまー 」母の物言いいを不思議に感じながらも
             戸口を潜ると むっとする位の檜の香りが啓太を包む
「 おかえり 」「 啓太もお父さんも よー来なはった 」
出迎えてくれたのは 此れが母ちゃんのお母さんなのかと 見まがう程
                 母ちゃんより背の高い おばあちゃんであった
「 じいちゃんも 楽しみにしてたんやが
  仕事で営林署の方に泊まらなならん様になって 2・3日帰れん様になってしもーた 」
「 疲れたやろー 荷物を下ろして 早よ入りー 」
玄関の板間を抜けると 居間らしき部屋の真ん中に奇妙な空間を見つける
「 母ちゃん、あれは なんやのん 」
「 啓太は 始めて見たんか?
        あれは いろり言ぅて あれを囲んで皆でごはん食べるんやで 」
「 ふ~ん 」
唐突に おばあちゃんが「 啓太は きな粉は好きか? 」「 う、うん 」
「 そんなら 一仕事して貰わねばなっ 」
そういうと おばあちゃんは 土間に続く板間に新聞紙を敷き
                    麻袋と石の塊( 石臼 )を用意すると
「 この袋ん中のお豆さんを 臼の穴に少しづつ入れて
    上に付いとる棒をゆっくり回すんやで
        そうすれば石の間から 啓太の好きな きな粉が沢山出来るんや 」
「 うん、解かった 」
啓太は おばあちゃんの言いつけ通り ゴリゴリ、ゴリゴリ、
「 アラ、アラ 啓太、そんなに作らなくて良いのに 食べる分だけで良かったんだけど 」
「 それは そのまま置いといて 母ちゃんとトウキビを採りに行こうなっ 」
「 うん 」
家の脇を抜けると 向日葵や色々な夏野菜が畑いっぱいに所狭しと植わっている
「 啓太、トウキビのお髭さんが黒くなったやつを 五本だけ捥いでくれる 」
「 うん、五本やんなー 」
ちっこい啓太にとっては 自分より高い位置のトウキビの実に手が中々届かない
色々な場所からアプローチを試みる最中 自分の立ち位置の背後で音がした
ガラガラ、カラカラ、
振り返って 目をこらすと 木立の間から 又も恐怖の谷川が見える
思わず 母のエプロンにしがみ付くが 脚が震えて止まらない
「 なんや 怖いんか? 」「 だって 柵も何にも無いんやもん 」
啓太は元々高い所が苦手であったが 後々のトラウマに成りそうである
夕食は いろりの前で丸ゴザにあぐらを掻いて 食事を取った
いろりにくべる 柴の煙が目に浸みるし
          部屋中の香りが強く なんだか燻製にされてるような面持ちである
夕食を終え 一休みする間に 寝屋には既に布団が敷かれ 蚊帳が張られていた
啓太は 蚊帳が大好きである 理由は無い! 好きな物は好きなのだ
蚊帳の縁を捲って 中に飛び込む瞬間が一番ドキドキする
だから スプラッター・チャイルドみたく 何度も出たり入ったりするのが 無償に楽しい
この日は 何度か蚊帳を出入りする内に いつの間にか布団に潜り込んで寝てしまった

「 カッコー カッコー 」・・・・・・・・
辺りを見回すが 部屋の中には人の気配は無く 傍らの小さな小窓から朝日が差し込んでいた
啓太は小窓から半身を乗り出して 辺りを見回すと
目の前は 草の生えた緩やかな坂が有り その先には昨日歩いて来た道が続いていた
と、手元で なにかムズムズする「 ヒャッ 」
啓太の手元を 小さなムカデが這っていた ムカデを振り払おうとした瞬間
バランスを崩した啓太は 窓の外をコロコロ、コロコロ
コロコロ、コロコロ 当等、道端まで転がって止まった
ゴツゴツした道は 裸足では歩き難くて 中々玄関先までたどり着けなかった
「 啓太、寝巻きのまま 外に出てたんか 」
「 う~うんん 窓から落ちちゃった 」「 えっ、怪我は、痛い所無いか 」
「 だいじょーぶ 」
「 こんにちはー 」「 こんにちは 」
振り返ると其処に ランニングシャツに半ズボンの男の子と
             ピンクの花柄のワンピースを着た女の子が立って居る
「 誰、」啓太が思わず声を漏らす
「 啓太の従兄弟で こっちが同い年の健太郎君で こっちが二つ下の妹の美春ちゃんや 」
啓太は 従兄弟という関係があまり理解出来ていなかったが 軽く会釈を交わすと
「 啓太って言うんか? 啓太、熊、見るか? 」
「 うん 」これまた意味も理解せずに相槌を打つ
「 啓太、健太郎君の家に行くんなら 先ず 寝巻きを着替えな なあ 」
着替えを済ませ外に出ると 待ちかねた様に 二人揃って手招きをする
「 こっち こっち 」 妹「 こっち こっち 」
誘われて 付いて行った先には石段が有った
   ごつごつした壁に沿った石段の向こう側は またもや切り立った壁の下に谷川が見える
二人は その石段を飛び跳ねる様に 先へ、先へと降りて行くのだが
啓太は 壁に張り付く様にして降りる為 おいそれとは 二人に追い着けないでいた
要約、谷川の川原にたどり着いたと思えば
         今度は 大きな岩に行くてを阻まれ 中々、二人の様には進めない
四苦八苦の行脚の末 たどり着いた民家の横には
            ブロックで作られた檻の中に ツキノワグマの小熊が飼われていた
後で 母ちゃんに聞いた話では 健太郎たちの父ちゃんは猟師だから
             親熊を撃ち殺した後、残った小熊を連れて帰ってきたそうだ
「 啓太、泳ぎに行こう 」「 えっ、水泳パンツ持ってないよ 」
「 そんなもん いらん、いらん 」 妹「 いらん、いらん 」
「 何処で泳ぐの 」
「 川に決っとる 」 妹「 決っとる 」
すっかり 二人に振り回される 啓太であった
川縁に着くと 健太郎は服を岩の上に脱ぎ捨てると
        パンツ姿で 川の中に体を横たえた か、と思えば
               みるみる下流に流され 少し離れた場所で立ち上がる
これはもはや 泳ぐと言うより流されるといった方が いいかもしれない
啓太も 意を決して川の中に・・・ とても楽しいのだが 想像以上に水は冷たく
少し遊んでは 岩の上で体を温めて また川に戻る繰り返しであった
「 あっ、忘れとった 」「 今日 学校で人形劇をするって 言うとったんや 」
「 おやつも貰えるらしい 」「 早よ行かな 」
「 啓太、急げ 」 妹「 啓太、急げ 」
あたふたと パンツを絞り、湿ったまま上からズボンを穿き 健太郎の通う小学校に一目散
今日は本当に 慌しい 啓太君である
小学校はこれまた 校庭側を切り立った谷川を臨む場所に建っていた
講堂に入ると 中には数十人の児童が 舞台枠の前に座り込んでいる
啓太たちは 開演直前に間に合ったものの やや後部位置に座らざる終えなかった
それでも おかしは貰えたし 楽しいひと時を過ごし 終演の頃には三人とも上機嫌であった
帰り道の道すがら 健太郎が「 ヤッッホー 」 妹「 ヤッッホー 」
「 ヤホホホホー 」 妹「 ヤホホホホー 」と
               先程、人形劇で歌われた( 山賊の歌 )を歌いだす
啓太も加わり 三人は一列に並び 輪唱しながら行進しだしたのである
だが 道半ば、水を差す様に突然の夕立
ザー ザーー
「 啓太、そこのお寺の軒先で 雨宿りするぞ 急げ 」
雨は2~3分程度で 程無く止んだ
ポチョーン、ポチョーン、雨は止んだのだが 境内に在る大きな檜から 雨露が落ちてくる
啓太は 雨露なぞ気にせず 軒先から一歩 足を踏み出した
すると 行き成り 上から バチャーン と 何かが降って来た
「 うわー こんなでっかいアマガエル始めてやー 」
「 啓太、そいつはアマガエルじゃのーて モリアオガエルって言うんや 」
「 ふ~ん 」「 あっ、動いた あんな高い所から落ちても大丈夫なんか 」

其の夜 啓太は夢を見た カエルを頭に乗せたクマさんが踊ってる
                           山賊が次々と川に流されて行く・・・

 

 

 

 

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