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啓太の一日 ( 毛がに )

Photo_10[ 啓太 ] ・ 「 わー ! 」 「 挟まれたー 」
           「 勇作にいちゃん ここの奥に でっかいのが居るよ 」
[ 勇作 ] ・ 「 どら カエル突っ込んでみるから ちょっと退いてみー 」
今日は 啓太・一夫・勇作の三人で 七木家より少し下流の小川で 毛ガニ捕りをしていた
ここで言う 毛ガニは淡水に住んでおり その名の通り ハサミの太い腕に毛が生えていて
有名な上海蟹と比べても ほぼ大差は無いであろう
普通サイズの物は 甲羅が大人の拳ぐらいの大きさがあり
体色は黒っぽいのだが 茹でると やはり赤くなる
啓太の住んでいる所では 主に川の石垣に穴が有れば たいがい その中に潜んでいる事が多い
捕まえる手順としては 針金に括り付けたアマガエルを餌にして 穴の中に突っ込み
毛ガニとの引っ張り合いを行いながら 徐々に引きずり出すと言う算段である
当然 人間様の勝ちは決まっているが
余り強引に引っ張ると ハサミだけが捥げて出てくる事に成ってしまう
[ 勇作 ] ・ 「 よし よし 居るぞ 居るぞ 」
勇作は 蟹が餌を掴んだと思えば慎重に針金を引き 手ごたえが軽くなれば 
そのまま じっと待つ と言った具合に 蟹と一進一退の駆け引きを繰り返し捕獲に至るのである
[ 勇作 ] ・ 「 啓太 捕れたぞー バケツ持ってこーい 」
捕れた毛ガニをバケツに入れると ガシャ ガシャと音を立てて活発に動き回っていた
改めて 毛ガニを眺めると
なかなか どうして 食べ応えの有りそうな 立派なハサミを持っている
啓太は「 お前は 旨いんかー 」と尋ねるが
相変わらず毛ガニは ガシャ ガシャと動き回るだけであった
[ 一夫 ] ・ 「 勇作にいちゃん こっちにも いてるー 」
[ 勇作 ] ・ 「 今 そっちに行くから待っとけ 」
一夫と勇作のやりとりを聞きながら 啓太もまた 次の獲物探しに取り掛かった
いくつかの穴に探りを入れる内 四つ目の穴の奥に 何か動く物を指先に感じた
啓太は身体を水面まで屈め 更に穴の奥に手を伸ばすと それは少しヌルッとした感触であった
( 魚や 魚が居る )
[ 啓太 ] ・ 「 勇作にいちゃん~ ! こっちの穴の奥に魚がいてるー 」
[ 勇作 ] ・ 「 捕まえてやっから 替われ 」
[ 啓太 ] ・ 「 でも 穴から手を抜いた途端に逃げられそーや 」
          「 あっ ! 捕まえた 勇作にいちゃん 魚 捕まえたでー 」
啓太は魚を 捕まえるには捕まえたのだが ともすればスルリと逃げられそうに成り
魚を握った手に徐々に力が込められてゆく         
握りしめた手を穴から引き出した頃には 魚はピクリとも動かなくなっていた
[ 勇作 ] ・ 「 こいつは もうダメや 捨ててしまえ 」
          「 だから 替われといったろー 」
白い腹を見せながら 流れて行く魚を見つめながら 啓太は感情の昂りを覚え
突然 わん わんと大きな声で泣きだした
魚を殺してしまったのが悲しいのか 勇作に攻められたのが悲しいのか 自分でも訳が解らない
勇作は困り果てた顔をして「 泣くな ! 啓太 ! 」
「 お前のとうちゃんに毛ガニ食べさせたるんやろ 」と諭しに掛った
勇作のほんの一言で 気分も表情も ころっと変える げんきんな啓太であった
[ 一夫 ] ・ 「 勇作にいちゃん さっきの穴に まだもう一匹居るよ 」
[ 勇作 ] ・ 「 一夫 でかした 今 そっちに行くからなー 」
啓太も蟹の入ったバケツを持って 勇作の後に続き 一夫の傍までやって来ては
石垣の上に座り込むと のんびりと頬杖をつきながら 毛ガニが取れるのを待った
[ 勇作 ] ・ 「 よし捕れた これで三匹目や 」
三匹目の毛ガニがバケツに入れられると
新参者を踏み台に 一匹の毛ガニがバケツから這い出そうとする
それを見た啓太が手を伸ばそうとするが 蟹は大きなハサミを振り上げ 啓太を威嚇するのである
怖気づき 怯んだ啓太は 毛ガニの逃亡を易々と許してしまった
[ 啓太 ] ・ 「 勇作にいちゃん~ カニが逃げる 」
 ポチャン! 水に入った毛ガニの逃げ足は 更に速くなる
ここで逃げられて堪るかと 必死で蟹を追う勇作 それを目で追う啓太
 バシャーン! 突然 勇作が川の中に倒れ込んだ 一夫と啓太が心配そうに見守る中 
勇作は全身から水を滴らせ ゆっくりと起き上がると 満面の笑顔を見せた
「 逃がすかい ! 」と言い放つ その手には しっかりと毛ガニが掴み捕られていた 
[ 勇作 ] ・ 「 家に帰って着替えてくるわ 」
          「 ついでに うちのかあちゃんに 蟹を湯搔いておいてもらっとくからな 」
         「 川から上って しばらく此処で待っとけ 」と言い
片手に蟹を持ったまま もう片方の手でバケツを持ち上げると 自宅に向かい歩き出した
一夫と啓太は 石垣の上に並んで座りこむと 近くにある小石を川に投げては はしゃいでいた
やがて自宅に着いた勇作は 未だ雫の垂れる服のまま 土間に入り込むと
「 かあちゃ~ん 川にはまってしも~たから 着換え出してー 」
と言いながら 毛ガニを流しの洗い桶に移し
「 此の毛ガニ 茹でといてなー 後で一夫と啓太に一匹づつ分けるから 食べたらあかんよー 」
勇作の母[ スミ ]は着替えを土間の上がり口に置きながら
      「 濡れた服は 物干しに掛けとくんやでー 」
[ 勇作 ] ・ 「 うん わかった 」
居間の奥から重蔵じぃちゃんの声が聞こえる
「 勇作、 毛ガニもええが 沢ガニを取って来てくれ 」
( はは~ん じぃちゃんはどうやら晩酌のつまみに 沢ガニのから揚げをと目論んでる様やな )
 ・・・
重蔵は 返事をしない勇作に焦れたのか「 駄賃出すさけ 行ってこー 」と言い出した
待ち構えていた様に 勇作はここぞとばかり言葉を畳掛ける
[ 勇作 ] ・ 「 俺と啓太と一夫の三人で50円づつの150円出すんなら 行ってもええよ 」
[ 重蔵 ] ・ 「 よし ちゃんと渡すから 頼んだぞ 」
勇作は土間でバタバタと着替えを済ませ 外に有る洗い桶に井戸水を張り
その中で濡れた服を適当に濯いでは絞り これまた適当に物干しへと掛けていった
[ 勇作 ] ・ 「 かあちゃーん 忘れず毛ガニ茹でといてなー いってきまーす 」
勇作はバケツを振り回しながら 啓太達の処まで駆け足で戻って行くのであった
[ 勇作 ] ・ 「 おーい 沢ガニ 取りに行くぞ 」
         「 じぃちゃんが 駄賃出すって言うとるから 予定変更や 」
Photo_11

沢ガニの捕れる穴場は 先程の石垣からやや下流の 川幅が3メートル程の細長い中洲にあった
この場所は 重蔵じぃちゃんから父ちゃん そして勇作へと 代々受け継がれて来た場所だが
未だに 中洲にある川石を捲れば 沢ガニが面白いように捕れる
[ 勇作 ] ・ 「 小さい奴と 卵を抱いたメスは逃がしてやるんやで 」
[ 啓太 ][ 一夫 ] ・ 「 うん 」「 はい 」
早速 啓太は近くにある自分の両手幅大の川石をひっくり返すと 
沢ガニが3匹ほど「カサカサ」と走り回る そいつらを捕まえようと手で追い回してみるのだが 
中々どうして 簡単に捕まる沢ガニ達でもない
それでも 何度か取り逃がす内に 要訳コツを掴んだのか 一匹の沢ガニを片手で包み込んだ
捕まったカニは 必死にその小さな爪で 啓太の指を挟み込んで抗うが
啓太は「 痛くないよー 」と言いながら そいつをバケツの中に放り込む
沢ガニ捕りも 慣れて来ると以外な程捕れる様に成り 半時もしない内にバケツの中は
「 ガシャ ガシャ 」と言う音と 蟹の出す泡で 埋まって行った
[ 勇作 ] ・ 「 よぅーし もうこの位でええやろ 」
3人は揃って 屈めて居た背中を伸ばすと バケツの周りに集まっては 中を覗き込んだ
バケツの中の上々の首尾に 皆はほころんだ顔を見合わせ 
やがて バケツを持ち上げる勇作の後に付いて 3人は 七木家に向かって歩き出すのであった
七木家の土間に入ると 台所に丁度 重蔵じいちゃんが立って居た
勇作は「 こんだけ有れば ええやろ 」と沢ガニの入ったバケツを差し出して見せると
[ 重蔵 ] ・ 「 おぉ! 上等、上等 」
        「 ちょっと 待っとけ 」と言いながら 居間の方に姿を消した
暫くして 現れた重蔵が「 勇作 今 細かい銭が無いから お前の分の駄賃は後や 」
[ 重蔵 ] ・ 「 一夫 啓太 駄賃やるから こっちこー 」
        「 ほれ 手ー出してみろ 」
[ 一夫 ] ・ 「 ありがとー 」
[ 啓太 ] ・ 「 じいちゃん ありがとう 」
二人は重蔵に貰った五十円を握りしめ 笑顔を浮かべながら お互いの顔を見合った
[ 勇作 ] ・「 あー 蟹のハサミが一本 足りん 」
既に茹で上がった蟹を 新聞紙の上に取り分けて居た勇作が 突然 声を上げたのである
[ 重蔵 ] ・ 「 茹で上がり具合を ちょいとな 」
淡淡と悪びれもせず言い放つ重蔵に 何か言いたげな勇作では有るが 
未だ自分はお駄賃を貰って居ない事に思い当たり 言葉を控える したたかな勇作であった
[ 勇作 ] ・ 「 傷むのが早いから 蟹は今日中に食べちまえよ 」
二人に 新聞紙に包んだ毛ガニを 一匹づつ手渡し
[ 勇作 ] ・ 「 また 明日な ! 」
[ 啓太 ][ 一夫 ] ・ 「 ありがとう 」「 また 明日ねー 」
啓太は 七木家の前で一夫と別れ
手に握りしめたお駄賃と毛ガニを抱え 意気揚々と家路に着いた
自宅に入ると 台所で夕飯の支度をする母の目の前で 毛ガニを取り出して 自慢げに見せた
[ 母 ]   ・ 「 啓太が 捕まえたんかー 」
[ 啓太 ] ・ 「 うーんう 」
啓太の背後から突然 声が聞こえた「 蟹の匂いがするぞ ! 」
[ 啓太 ] ・ 「 あー びっくりした 」
いつの間にやら とうちゃんが啓太の真後ろに立って居た
蟹はとうちゃんの好物である したがって 蟹が有る事を知り得るのは時間の問題では有ったが
事の成り行きの速さに 啓太は 目を丸くするばかりである

Photo_12

[ 啓太 ] ・ 「 勇作にいちゃんに 毛ガニを分けてもろ~たんや 」
           「 とうちゃんとかあちゃんに ハサミの所一本づつあげるさけ 
                           僕は 次の足と蟹ミソを貰うでー 」
      「 とうちゃん ! 居間に持って行くから しばらく座って待っててな 」
啓太は 毛ガニを母に預け 父の手を引いては 卓袱台の前に座らせ
徐に 卓袱台一面に新聞紙を敷詰め 取って返しては 
母の持つ毛ガニのハサミを一つ もぎ取ると 父の手に持たせるのであった
[ 啓太 ] ・「 後は 皆の分に分けるから 先にそれを食べててなー 」
      「 かあちゃん 蟹の足を分けたら お皿に胴体の所 出刃で切り分けて~な 」       
      「 甲羅の所は 僕の皿に入れといてや 」
すっかり 意気盛んに仕切りまくる 啓太をよそに 
父は既に蟹のハサミを食べ尽くし 次の 部位が来るのを待って居た
[ 啓太 ] ・「 とうちゃん 毛ガニは一匹だけやから もうこれでお仕舞や 」
三本の小さな足と切り分けた胴の乗った皿に 父の手を重ねる様に添え当てた
一匹の毛ガニを 三人で分けると 付き出し程度の粗末な量に成ってしまう
啓太は改めて 自分の皿を眺めると「 とうちゃん 甲羅の所も食べへんか ? 」
[ 父 ] ・ 「 ありがとうな 父さんは これだけでも十分な御馳走や 」
     「 甲羅は 啓太の当然のご褒美なんやから 啓太が食べなさい 」
父の申し出通り 啓太は甲羅を持ち上げると 小さな指で小削ぐ様にして蟹ミソを口に運んだ
量は少ないが 家族3人が顔を突き合わせて食べる 毛ガニは最高に美味しかった
[ 啓太 ] ・ 「 とうちゃん 次ん時には 食べ切れんほど いっぱい捕ってくるからね 」
[ 父 ]   ・ 「 そーか 楽しみにして待っとくで 」
[ 啓太 ] ・ 「 うん ! 楽しみにしててな~ 」
其の夜 啓太は夢を見た 可笑しな夢であった 
手に持ったバケツの中から 蟹が 次から次から這い出してくる
傍らで とうちゃんが両手に蟹を持って踊っている
啓太の周りで 蟹達が ブツブツ ブクブク ブツブツ ブクブク 何とも変梃りんな夢を見た

 

 

 

 

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