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啓太の一日 ( 虫博士 )

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「 ただいまー 」
啓太が 玄関戸を閉め ズック靴を脱ごうとすると
玄関の土間の端に 綺麗に磨かれた革靴が見て取れる
「 おかえり 」
えっ、聴き慣れない声が返って来た
正面に目を移すと 居間の引き戸から 顔を出す人物が居る
「 あっ、叔父さん( 父の二歳上の兄 ) いらっしゃ~い 」
叔父は中学校の先生をしており 今日は近くで先生の集まりが在り
         帰りがけに 啓太の家に 立ち寄ったという事らしい
「 啓太、元気にしとったかー 」
「 はいっ 」
「 よし、元気な返事や 啓太に土産を持って来たぞっ 」
「 ありがとう~ 」
啓太に手渡された お土産は 小桜模様の包装紙に包まれ ズッシリと重かった
「 なにかな~、 叔父さん、開けて見てもいい 」
「 ああ 啓太の土産やから 遠慮せんでもええぞ 」
啓太は この綺麗な包装紙を破らない様にと 端に付いたセロテープを ゆっくりと剥がし
全てのセロテープを剥がし終わると 一気に包装紙を広げた
中には 今迄見た事の無い様な 多彩な色使いの本が入っており
表紙には 蝶の写真に 大きく漢字で書かれた題字が有り その下にふりがなが見えた
「 げんしょく こんちゅう だいずかん 」
「 叔父さん これ 虫の本やんなー 」
「 啓太の父ちゃんが 啓太は虫が大好きで
      カブトムシを いっぱい採って来るのは 良いんやが
 夜中に カブトムシが ガシャ、ガシャと うるそーて かなわんと言うとったで 」
「 ふぅ~ん 」「 叔父さん これ あっちで見てて 良い 」
最早、目の前の本に夢中で カブトムシの話については 啓太の耳には全く入らない様である
啓太は 小桜模様の包装紙を 端を揃えて綺麗に折り
                図鑑と共に両手に抱え 隣部屋の卓袱台へと向う
気持ちは最早 ページを開いているのだが
           逸る思いを抑える様に 卓袱台の前に正座をすると
静かに 卓袱台の上に図鑑を乗せ ゴクリと生唾を飲み込み 仰々しく本に立ち向かった
ページを捲る度に 一喜一憂する 啓太の姿が在った
おんぶバッタや、 ショウリョウバッタ あれっ、名前が違う、
このトンボも このトンボも見たこと有る こいつは見たことねー
挿絵を見て かたつむりを食べるマイマイカブリって言うのがおるんか、
げんじボタルとへいけボタル 捕まえたやつは 同じやから どっちか判らん
あっ、こいつ知っとる ハンミョウ
( 人の前へ前へと飛ぶ事から 旅人の道案内とも言われる )
橙色の羽根はピカピカしとるけど こいつの口はギザギザで アリジゴクみたいやった
タマムシ、虫は見た事無いけど 絵に載っとる仏壇は 裏のじいちゃん所で見た
あの キラキラしてる所( 厨子 )が みんなコイツの羽根なんかー
「 啓太、叔父さんが 帰んなはるよ 」
バタ、バタ、バタ、
啓太は 図鑑を両手に抱え 玄関先に見送りに出た
「 そんなに 慌てんで良い 」
「 啓太、其の図鑑 気に入って貰えたか? 」
「 うん、僕の宝物にする 」「 そうかー そんなに気に入ったのか 」
「 しかし そうなると 次に来る時の土産を何にするか 考えとかねばな 」
「 当冶、きくさん 此の辺でおいとまします 」「 啓太、さよなら 」
「 叔父さん、さようなら 」・・・

朝の通学路で 啓太は何やら キョロ,キョロと 辺りを見回しながら歩いていた
何を?、勿論、虫を探しているのである
「 居た! 」啓太は ススキの葉に留まっている 白黒の小さな虫を摘み上げると
徐に ランドセルから筆箱を取り出し 其の虫を消しゴムの横に入れ フタを閉めた
言うまでも無く ランドセルの中には 皆に自慢するべく 宝物の図鑑が入っている
教室に入ると さっそく ランドセルから 図鑑を取り出し
同級生の一夫君に 声を掛けた
「 一夫君、此れ見て、」「 どうしたんや それ 」
「 昨日来た 叔父さんのお土産なんや 」「 ええなー 僕にも見せて 」
一夫の声と共に クラスの子供たちが 啓太を取り囲んだ
啓太は 得意満面で ページを見開く
やがて 始業のチャイムが鳴り
       墨田先生が入って来たのだが 皆は未だ自分の席に戻っていなかった
先生は 生徒達の間から 顔を覗かせ
「 そろそろ 授業を始めようか? 」
皆は 蜘蛛の子を散らす様に 席に着く「 礼 」「 おはようございます 」
「 啓太、其の図鑑は 休み時間に見るのは構わんが
             チャイムが鳴ったら 直ぐに片付ける事 判ったな、」
「 はい 」
「 それと あんなに大勢じゃ 見難かったろ
     確か 図書室にも同じ物が有ったと思うから 図書室に行って見なさい 」
「 先生、ほんまかー 」 ワイ ワイ ガヤ ガヤ
「 ハイ! 授業を始めます 」・・・・
休憩時間のチャイムが鳴ると 数名の児童が 図書室へとダッシュする
啓太は 筆箱を取り出し 朝方 捕まえた虫を 皆に見せるべく フタを開けた
虫は 筆箱の中の 消しゴムに抱き付く様に くっついている
啓太は 其の虫を 強引に引き剥がし 机の上に置いたのだが
虫は 足を全て縮こまらせて 仰向けに転がった
皆は 啓太の次の行動に 期待を寄せている様である
虫の名前を調べようと 啓太が 徐に 机から図鑑を 取り出そうとした時 
仰向けに成っていた虫が 前足を伸ばし 机に脚を吸い付ける様に
               ブリッジしたかと思えば そのまま バク転して見せた
「 オオ~ 」この思いも依らぬ パホーマンスに 子供達は一斉に歓喜の声を上げる
啓太も 又、図鑑の事など うっちゃって
  虫をひっくり返し そいつが 又、バク転する様を 何度も繰り返し 楽しんでいた
一人の生徒が教室に駆け込むと「 図書室で借りて来たぞ~ 」
数人の児童が 取り囲むように集まり 中の一人が声を上げる
「 ほんまや、啓太の本と 同じやー 」
( 僕の図鑑は そんなに ボロっちく無い )
呼応する様に 始業のチャイムが鳴る 皆は 慌てて席に戻っていった
啓太は 残念そうな顔を見せ 虫を摘み上げると 筆箱に入れ フタを閉める

昼休み・・・ここぞとばかり 図鑑を広げ 筆箱の虫の名を調べだした 
オジロアシナガゾウムシ、
なるほど よく見れば 口先がゾウの様に 長く伸びている
「 長い名前やなー 」「 白黒やから パンダゾウムシでいいやん 」
「 そや、そや 」合議の結果、この虫はパンダゾウムシと名付けられた
一人の生徒が 啓太に近づいて来て 行き成り 腕を突き出すと
徐に 掌を開け「 虫博士、裏山で取って来たこの虫 何ちゅうんじゃ 」
別の生徒が「 虫博士、早よ 調べてくれ 」と囃し立てる
啓太は 図鑑のページを バタバタと捲り 其れらしきページを見つけた
コメツキムシ、呟きながら 挿絵に目を移すと
裏返しの虫が 首元で爆ぜるように 飛び上がる絵が 描かれている
「 其の虫、貸して、」啓太は 薄茶の小さな虫を受け取ると
机の上に 仰向けに置いた 皆は 固唾を呑んで 視線を向けるが
虫は 足を縮こまらせたまま動かない・・動かない・・・動かない
と、パチンという 小さな音と共に 虫が跳ね上がった
「 ワァー 」「 さすが 虫博士 」
「 あれ、虫が見つからん 」「 虫博士、何処におるんや 」
「 そんなん、僕に聴かれても 判らん 」
「 虫博士やろ 」「 むちゃ むちゃ 言いな 」

 

 

 

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