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啓太の一日  ( プロローグ・雪 )

Photo_32布団の隙間から見える窓は もう明るかった
分厚い冬布団の中から声が漏れる
「 あっ 」
声の主は 一瞬の内に窓際に取り付いていた
そいつは 肌蹴た寝巻きの裾で窓ガラスの曇りを拭き取ると
窓ガラスにおでこを ピタッと当てたまま 何やら キョロキョロと外の様子を覗っている
そう こやつが このお話の主人公である 角川啓太 町立小学校の一年生だ
啓太の住む土地は 十数キロ西に海を臨み 四季に恵まれてはいるが
冬は少々長く 毎年 雪が1m位は積るといった様な所に位置する
[ 啓太 ] ・「 とうちゃん 雪積もっとる 」
[ 父 ] ・ 「 そおか~・・・・ 」 なんとも気の無い返事である
鍼灸師を生業としている啓太の父は 目が全く見えない為 雪道を歩くことは至極辛い 
従って 父にとっては嬉しくも無い 難儀なだけの雪なのだ                              
しかし 啓太にとっては とっても喜ばしい 一大事であった
雪が積もるこの日を待ちわび どれ程の日々を 過ごした事であろうか   
( 雪合戦にスコップ滑り台 ソリ遊びにかまくら作り )
頭の中は やりたい事でいっぱいだし 胸の中は ワク ワクで じ~っとなどして居られない
バタ バタと着替えを済ませ 台所で朝食を作る母に                                 
「 ちょっと 勇作にいちゃんの所に行ってくる 」と告げる      
すぐさま玄関を飛び出し 道を挟んだ斜め向かいの家へ 一目散で駈け出す啓太であった
啓太の家族は 父[ 角川当治 ]と 母[ 角川きく ]と 一人っ子の啓太の3人暮らしであったが
親しくしている 道向かいの七木家の末っ子と言った様なポジションに 啓太は溶け込んでいた
七木家は 爺ちゃんの[ 七木重蔵 ] [ 七木太一 ]おじさん [ 七木スミ ]おばさん
中学一年生の[ 七木ゆり子 ]ねえちゃん 小学五年生の[ 七木勇作 ]にいちゃん の五人家族である
七木家の土間に入ると 勇作の母[ 七木スミ ]が御膳を並べているのが見えた
勝気でせっかちな啓太の母に対し 勇作の母[ 七木スミ ]はおっとりとした性格の持ち主であった
「 おはようございます 」と声をかけると              
こちらに気づいて「 あら 啓太 」「 おはようさん 」と挨拶してくれる
少し間を置いて「 どうしたの? 」と問いかける言葉に重ねるように
啓太は「 勇作にいちゃんは? 」と捲くし立てる
スミおばさんは 優しい声で「 まだ 寝ちょるよ! 」と答えてくれるのだが
啓太は 落ち着きのない様子で「 起こしてくる 」と言い残すと
勝手知ったる他人の家とばかりに 階段をトントンと駆け上がり 勇作の枕もとにチョコンと座った
勇作は まだぐっすりと寝込んでいる様であった          
「 勇作にいちゃん・・・勇作にいちゃん 」と声をかけるが 起きてはくれない
焦れた啓太は 勇作の顎と頭を抱え 揺り起す
眠りを邪魔する突然の闖入者に 勇作は不機嫌であった「 うるさい うるさい うるさい 」
勇作の剣幕に 一瞬怯んだ啓太だが 言葉の勢いは衰えなかった    
[ 啓太 ] ・「 ゆき!雪積もっとるよ~ 」「 勇作にいちゃん 外見てみ~ 」・・            
            「 ね~ ね~ ソリは ソリはいつ作るの? 」と言った具合で
これには 勇作の方が閉口するばかりである
話が途切れる頃合いを見計らって
勇作が「 材料はもう揃っとるから 学校から帰ってから 裏の納屋に来ればええ! 」
      「 それより お寺の集合に遅れるんじゃねえぞ 」 
      「 さっさと 朝めし食ってこい 」と言いながら また布団の中に潜り込んでゆく
早々に 追い払われた啓太であるが 
家路に就く その顔は ソリの出来上がりを想い描いて ほころんでいた
家に帰ると 台所から母の声が響き渡る
「 さっさとご飯済まさねえと 学校に遅れちまうよ! 」と追い急かされる始末である
朝御飯を済ませ 玄関で まずはランドセルを背負い             
次に耳当ての付いた防寒帽をかぶり 更にカッパの上下を着こめば ほぼ登校の支度が整う
最後に長靴を履く事に成るのだが これは少し特殊なのだ なにが特殊かと言えば 大きさである
啓太と とうちゃんの長靴は まったく同じ形 同じ大きさなのだ
かあちゃんに言わせれば「 どうせ すぐに足も大きく成りよる 」
考え方によっては 現時点でかんじき同様の効果も見込めるではないかとも 言うのであった
啓太がその長靴を履くと さすがに膝下までの長さが有り
詰物に新聞紙を入れて防寒に役立つとしても ガッポ ガッポ なのだ
音はしないが やはり ガッポ ガッポ なのだ
しかし 啓太はこの長靴をたいへん気に入っている様だった
これを履いていると大人の一部を身に纏っている様な気分に成れると言い
不満などは一言も言わない
だが、只ひとつ 困ることは有る !
手つかずの新雪の上を歩くときなど 時々踏み込んだ長靴が雪の中に埋まったままに成り
踏み出した足だけが前に脱げる度に両手で長靴を引き抜くと言う 作業が付いて回るのであった
Photo_33
登校の準備も整い ガッポ ガッポ は ガッポ ガッポ と集合場所のお寺へ向かって歩き出す
この季節 子供達は 小さな山ひとつ向こうの小学校まで お寺から集団で登校するのである
寺に着くと すでに 五人の子供たちが集まっていて なにやら つららの品評会が行われていたが
その中に 勇作の姿は見当たらなかった
程無くすると 勇作がやって来た
すると 子供達の中から三年生の孝介が 勇作の前に進み出て行き 敬礼をしながら 
「 報告します 」 「 隊長 六名全員揃いました 」
それに答えるように 勇作も芝居がかった口調で「 しゅっぱ~つ 」と号令を掛ける
皆は 勇作を先頭に隊列を組み行軍するのだが 隊列の順番もあらかじめ厳重に決まっている
まず 五年の勇作が道を踏み判け 続いて 五年の圭子が雪を踏み固め          
次に 三年の孝介 同じ一年生の一夫君と啓太 三年の雄一 と続き
しんがりを 四年の則子 が務めるのである
隊列が山の手前に差し掛かった頃 粉雪が少し吹雪いて来た  
勇作は「 下級生は前の上級生の足元を見て歩け 」    
      「 よそ見なんぞしてっと 山から落っこちちまうぞ 」と  注意を促す
山道の中程まで来ると 雪はだんだんと小止みに成り
やがて 学校の校舎が見える頃にはすっかり晴れ上った
それにつれて 子供達の表情も和らぎ いつの間にか隊列も崩れ去り
雪玉を投げては はしゃぎながら 校舎に向かう子供達の姿があった 
Photo

教室に入った啓太が 机の横にランドセルを掛け終わった 丁度その時
六年生の多田恭子が教室を覗きこんだ
恭子は「 五年はまだ来てないか 」と 誰ともなく言い放ち                
もう一度 周囲を見廻しながら こちらを向いた瞬間 啓太と 目が合った
冬になると学校では各教室にダルマ・ストーブが置かれる
それぞれのストーブに 六年生と五年生の当番が毎朝 火入れと石炭の準備して回るのだが
今回はどうやら 一年の教室は 多田恭子が当番の様である
啓太を見定めた恭子が「 啓太 コークス取りに行くから手伝いな! 」と言うと
啓太は「 は~い 」と言って トコトコと恭子の傍まで歩み寄る
なんとも 従順な奴である
多田恭子は 下級生の間では密かにアネゴと呼ばれ
一目置かれる存在であったが 生憎と啓太は そんな事には全く関心が無かった
人見知りが激しい半面 
好き嫌いで分けて好きな人の後を付いて回る いわゆる金魚のフンというやつなのだ
勇作なぞは 便所まで付いて来る 啓太を 小突いたこともあった程である
石炭置場は 長い廊下を抜け 用務員室のドアを開けた外まで行かねばならない
恭子は 片手に石炭バケツを携えると 足早に歩き出した
その後を 一年生の身長順で並ぶと一番前で 学校で一番チビな啓太がトコトコと付いて行く
それゆえ その様は親鳥の後を必死で追うヒナ鳥の様相を印象付ける
用務員室の手前の窓際に 五年生の三人組を見つけた                  
好き嫌いで分けると 嫌いな部類のいじわるな輩達である    
啓太は 自然と恭子の影に隠れるように付いて歩くのだが                      
どうやら 目を付けられてしまった様だ
三人の中の一人が 何か言い出した
たわいも無いからかい言葉が耳に入った途端 啓太は動けなくなってしまった
当初は からかい言葉なぞ 気にも留めなかった啓太であったが
しっこく 何度も聞かされる内に いつしか過敏に反応する様に成ってしまっていた
下向き加減の視線は うつろに廊下の木目の上を泳ぎ          
手足は力無く まるで デク人形のように何も言えない 何も聞きこえない 
泣き出す事さえも出来なくなって仕舞っていた
更に もう一人が口を開こうとした時 不意に廊下の向こう側から黒い影が飛び込んで来た 
いつの間にか そこには三人組の一人に馬乗りになっている 勇作にいちゃんがいた
恭子は 勇作達の取っ組み合いを横目で見ながら 気にも留めない素振りを作って見せ
「 啓太 行くよ! 」と デク人形の腕を握り 引き連れて行く 
この底堅さが アネゴと呼ばれる由縁であろう
石炭置場まで来た頃に ようやく啓太は勇作の様子が気に成りだしたが
恭子には何も言えずに 佇んでいた
恭子はそんな啓太を見透かしたように          
「 入口の雪を さっさと どけな 」と言いながら スコップを手渡すのであった
コークスを詰め終わり バケツを抱えた恭子の後に付いて 教室に戻る帰り際
先程の廊下に差し掛かかったが もう 勇作達の姿は無かった
後で聞いた話では その日 勇作は教頭先生にたっぷりとお説教を頂いたそうである
教室に戻ると そこには 五年生の当番らしき男の子が ストーブの片傍に居た
その子は 二人を見つけると 恭子に向かって ひょうきんな声で
「 火種はもう入れてありま~す 」と申し述べる
成る程ストーブの中を覗きこむと 小さなマメ炭が 赤く 鈍く光っている
恭子は おもむろに新聞紙とコークスを手慣れた手つきでマメ炭の周りにくべていく 
その後 下の空気口から火吹き竹で息を吹き込むと
ボッ という音と共に 新聞紙が一気に燃え上がた
ストーブが熱を帯びる頃には 教室にチャイムが鳴り響き 担任の澄田先生も教室に入って来た
先生が恭子達に「 ありがとう 」「 ごくろうさま 」と声を掛けると         
恭子達は ペコリと会釈し それぞれ自分達の教室に帰って行くのであった
「起立」・「礼」・「おはようございます」 学び舎は厳かに時間を紡ぎ流れてゆく

学校からの帰り道 日差しは銀世界を照らし ギラギラと眩しい程であった
家に帰り着き 玄関戸を閉め終えた時 早速のように 台所から母の声が聞こえる
「 宿題は有るんか? 」
「 勇作にいちゃんの所 行くんやろ 」
「 ちゃんと宿題済ませてから行くんやで 」
啓太は「 うん 」と小さくうなずくだけであった
カリ,カリ,カリ, 居間の掘りゴタツいっぱいに 教科書・ノート・筆箱を広げ
只今 宿題の書き取り練習に 奮闘中の啓太君であった         
ノートは何度も書き直した為か 少々薄汚れて見える                  
右端の方には芯の折れた少し歪な鉛筆が転がっていた
じつは 啓太には少々こまったクセがあった             
字を書く前に 必ずと言っていいほど 鉛筆の頭を噛んでいるのだ
そのせいで 啓太の鉛筆はすべて頭の方が ガジ ガジになってしまっている
母に 幾度となく注意をされるのだが   
その度に「 う・ん 」と返事はするが 気にかけている様子は 微塵も感じられない
今では 啓太の鉛筆の形は クラスメートの誰もが 知り得るほどである
宿題を終えて 勉強道具を片付けようと              
傍らのランドセルに手を伸ばすと それは艶やかに輝いていた

Photo_2

じつは 啓太が堀ゴタツに向かっている間に 母が糠袋で丁寧に磨き置いた物であった
台所の母に「 かあちゃん ランドセル・・・」と言うと                 
「 おまえの宝物じゃろ~ 」と返事が返ってきた
時間割を済ませ ランドセルを部屋の隅に そっと置き 
啓太は母に「 いってきま~す 」と告げて 家を飛び出した
七木家(勇作の家)の横手には 小川が流れ 川沿いを裏手に周ると 小さな橋が架かっている
それを渡ると これまた小さな池と 納屋が有る
啓太は 雪の退けられた処まで木戸を開け 納屋の中に入って行った
中に入ると ふわ~ とした稿の匂いがした 
「 啓太かー !? 今 竹を割るから少し待っとけ 」
勇作は もう作業に取り掛かっている様だった
薄暗い納屋の中を見渡すと 奥の方には稿が積み上げられ 隅には多くの農具が並んでいた
その 真ん中の方には 林檎箱と 向こうむきで鉈を持った勇作が見て取れる
「うっ」
小さな呻き声が聞こえた      
啓太が目を凝らして声の主を覗きこむと 右手の親指を握る勇作が居た 
握っている左手が何だか赤い
[ 啓太 ] ・「 血 」「 勇作にいちゃん!手 切ったんかー 」
勇作は無言のまま 手を抱えている
啓太は 勇作を尻目に 脱兎の如く納屋を飛び出し 母屋の土間に急ぎ駆け込んだ
土間には丁度 勇作の父[ 七木太一 ]が居た
「 太一おじさん 」「 勇作にいちゃん 手~切った 」
「 はよ来て 」と啓太は 渾身の力を出して 太一の腕を引っ張る
「 わかった 」と言った 太一ではあるが それでも 附いて行くのがやっとという有様で
終始 啓太に引っ張られたまま 納屋に向かった
太一は 「 勇作 手 切ったんか ? 」
「 どれ 見してみー 」と勇作の右手を掴み 勇作の親指を パクッと口に含んだ  
その最中にも 腰の辺りから手拭いを取り出し 両手で シャッ!と引き裂くと          
口にほうばった 指の付け根から 裂いた手拭いを巻き付けていった
太一は 口から赤い唾を吐き出し 手拭いを巻き付けた手を勇作の頭の上に置きながら
「 しばらく 上に挙げとけ 」と勇作に言い付け 「 ふぅ 」と息をひとつ漏らした
間を置いて 納屋の中を一通り見廻した太一は 勇作に「 ソリ作るんか? 」と尋ねる
勇作は 太一の方に向ったまま 無言でうなずくだけであった
「 竹はとうちゃんが割ったるから 今日はもう仕舞え ! 」と太一が言い聞かす 
勇作は やはり何も言わず うなずくだけだった
太一は 器用に鉈で竹を割り終えると「 ヤットコ貸したるさけ 竹は家で曲げてみー 」と言い 
啓太にヤットコと竹を手渡すのである 
啓太はヤットコと竹を受け取ったものの 先程からの状況と興奮で 少しポカ~ンとしたまま
中途半端に「 う・うん 」と小さくうなずき 戸惑いを抱いたまま とぼとぼと納屋を後にした
自宅に向かって歩きながら
( ヤットコってどう使うんやろ ) ( 竹を曲げるってどうするんかわからん )と考えている内に
いつの間にか玄関の前に着いてしまって居た
いつもなら どうすれば良いのか詳しく聞けるのだが
先程は 何か言い出し難い雰囲気に呑まれ そのまま帰って来てしまったのだ
「 ただいま~ 」
家に入ると 奥の方から「 啓太早かったね~ 」「 もう ソリは出来たんか? 」
啓太は 声のする方に歩きながら「 まだ今日は出来ないんや 」と言い
母の傍まで やって来ては 母の眼前に竹を差し出した
「 これ 曲げるのわからんから教えて~ 」
すると母は「 お風呂の用意してくれたら 教えたるさけ~に 」
「 薪が燃えたら かあちゃんを呼ぶんやで 」と言いながら夕食支度に台所に戻っていった
啓太の家の風呂は 五右衛門風呂であった
まずは浴槽に水を張り 釜の下の焚口から薪を燃やしてお風呂を沸かすのだが
小学校一年生の啓太にとっては けっこうな仕事量である
井戸から何度も水を運び 運び終えると浴槽に蓋をして その後に焚口の中の灰を掻き出し
次に ねじった新聞紙に火を付けて入れる その上に柴を重ね                
火の勢いを見計らって 薪を入れると言うと塩梅である
一連の作業をようやく終え「 かあち~ゃん 火 付いたよ~ 」と母を呼ぶ
割烹着の前で手を拭きながら 母は 啓太の横にしゃがみ込むと

Photo_3
「 どら 竹とヤットコ貸してごらん 」と竹の端をヤットコで挟み 焚口に近づけてゆく
「 火で炙りながら 曲げていくんやで 」
啓太は 見よう見真似で竹を曲げようとするのだが おいそれとは曲がってはくれない
かあちゃんは暫くの間 傍で様子を見て居てくれると思っていたが   
「 時間かけて ゆっくり曲げなあかんで 」と言い残し さっさと居なくなってしまった
啓太は 竹に視線を注ぎ 曲がれ 曲がれと念じているのだが だんだん 腕がだるく成って来る
それとともに竹の位置は少しづつ 火に近づいていった
しばらくすると ヤットコを持つ手が急に軽く成り 徐々に竹は曲がり出した
しかし 次の瞬間 煙が出たかと思う間もなく 炎を上げて竹が燃え上がった!
とっさに 啓太は 汲み置きのバケツ水に竹を突っ込こんだが
時すでに遅く 竹の先の方は黒く焦げて かなり短い物に成ってしまっていた
啓太は しょぼくれながら「 かあちゃ~ん こっちー 来て~ 」と泣きを入れる 
[ 母 ] ・ 「 なんや~ 」「 どうしたんや~ 」
啓太の声のトーンに 心配そうに近付く母に向かって                            
「 かあちゃん これ 」と 啓太は 黒く焦げた竹を見せた
母は 無残に焼け焦げた 竹を眺めながら 苦笑し                  
[ 母 ] ・ 「 燃えてしもうたんかー 」「 竹はもう無いんか? 」
[ 啓太 ] ・ 「 あと一本しか無いんや どうしょ! 」
[ 母 ] ・ 「 その一本は かあちゃんが手伝うさかい 後は 明日また作り直せばええ 」 
       「 ヤットコの方は かあちゃんが持ったるから 啓太は竹の方を持っとき 」
母の手を借りて 程無く一本の竹を曲げる事が出来た
母が「啓太 そろそろ お風呂が沸いてるか見て来て」
啓太は「 うん 」と返事をすると 早速 浴室に入り 風呂蓋で二・三回浴槽を掻き混ぜ
浴槽に手を入れて湯加減を確かめた後「 かあちゃ~ん もう 沸いてるよー 」と声を上げる
母は「 そーかー 」
  「 そんなら 底蓋入れてから とうちゃん呼んどいで~ 」
五右衛門風呂は 熱せられたお釜の底に 足が付かない様に          
溝の入った木の蓋を 突起の有る底の所で掛け嵌める様に成っている
啓太は 脱衣カゴに 服をすべて脱ぎ入れると 浴室に入り
浴槽に底蓋を浮かべ その上に乗っかって底蓋を沈めようとするのだが
体重の軽い 啓太の足元を 底蓋はスルリと何度も交わし 浮き上がるのである
苦身三嘆 やっとの事で底蓋を嵌める事が出来た啓太は 裸のまま浴室を出ると 
大きな声で「 とうちゃ~ん お風呂 」と叫ぶ
「 風呂か? 」と言いながら とうちゃんは 居間から のっそりと現れた
待ち構えていた啓太は甲斐甲斐しく 父の脱ぐ服を脱衣カゴに入れ                 
父の左肘を抱え込む様にして 風呂場に案内するのであった
浴室に入ると啓太が「 いくよ 」とうちゃんは「 よし 」の掛け声で
とうちゃんの頭の上から 洗面器のお湯を掛け流す 
これは かけ湯ではなく 単に 啓太が楽しんでいるだけで
父は それに付き合っているにすぎない 
次に セッケンを付けたタオルを とうちゃんに渡してから                   
自らも お湯を頭から被り 身体を洗い出すのだった
啓太は 自分が洗い終わると最後の仕上げとばかりに とうちゃんの背中を流し 
またまた 頭からお湯を掛けるのである
いつもの通り 最初に とうちゃんが 浴槽に入り          
お湯を掻き混ぜてから次に 啓太が お湯に入るというパターンであるが
とうちゃんが 湯船の底に 足をついた瞬間
「 うわっ ! 」と言う声と共に風呂の底蓋が勢い良く 浮き上って来た 
如何やら底蓋の止めが甘かった様である
啓太は とうちゃんの慌て振りを 眺めながら                      
何やら 楽しそうに「 アゲ・アゲや~ 」と 意味不明の声を上げた  
父は「 そうか~ 」「アゲ・アゲ なんか~ 」と言って 笑いだした
いつも とうちゃんとお風呂に浸かる時は 決まり事が 一つ有る
とうちゃんと順番に 掛け合いで100数えるまで お湯の中から出しては貰えない
しかも とうちゃんは 時々 途中から・・88,89,70と言った具合に数を変えるのである 雪が チラチラと舞い込んだ 
[ 啓太 ] ・「 とうちゃん 雪降っとるでー 」「 積もるかな~ 」
父は「 積もるかもしれんんな~ 」と これまた相変わらず 気のない返事である
       
       

          窓の外は 夜の闇と雪の白で彩られ しんしんと 深まって往くのだった

Photo_4

 

 

 

 

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これからもブログの運営頑張って下さい。
失礼致しました。

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