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啓太の一日 ( 雪遊び )

Photo_21「 啓太~ 」
勇作が 玄関の雪囲いの中から啓太を呼び付ける
「 今行くから ちょっと待つてて~ 」
すでに 学校は冬休みに入って二日目と成っていた
この季節玄関前には 臨時に波板で建て囲った空間が設けられている
理由のほどは 雪囲いの名の通り 雪で玄関が埋まるのを防ぐ為の物である
勇作は その空間に入り込んで 体に着いた雪を払いながら啓太を待っていた
啓太は 朝食の味噌汁をご飯に掛けると 急ぎ口の中に放り込むと
「 ごちそうさま~ 」
跳ねる様に掘りごたつから飛び出し 一目散に勇作の元へ馳せ参じる啓太であった
[ 啓太 ] ・ 「 勇作にいちゃん おはよう 」
        「 今日は 何して遊ぶんや ! 」「 お寺に 行くんやろ 」
子供達にとってお寺の境内は 公園であり 社交場であった
境内には ブランコが有り 滑り台が有り 小さなプレハブの中には卓球台も備え付けられていた
したがって 遊び相手を探す時などは まずは お寺に行ってみるのである
[ 勇作 ] ・ 「 その前に 良いもん 見せたる 」
勇作が 一歩横に動くと 
その後ろには 林檎箱に竹を打ちつけた 豪奢なソリが見て取れた
[ 啓太 ] ・ 「 勇作にいちゃん ! ソリ出来たんか~ 」
啓太は ソリが出来上がるのを心待ちにしていたが
勇作が鉈で手を切ってしまい ソリの出来上がりが延び延びに成ってしまっていた
怪我の事も有り せっつくのも我慢して 今日のこの日まで口に出すことは無かったのである
勇作は勇作で 啓太を驚かせようと 昨日の内に 一人でソリを作り上げてしまっていた
[ 啓太 ] ・ 「 作るところ 見たかったぁ~ 」
[ 勇作 ] ・ 「 もう出来ちまったから 試しに表でソリに乗ってみろや 」
ソリを持って二人で表に出ると 綿雪が チラ チラと舞い降りていた
啓太は おもむろにジャンパーのフードを被り 改めてソリを眺めてみると
ソリの前に少し太めの棒が取り付けてあるのを見つけ 勇作に問いかけた
[ 啓太 ] ・ 「 この棒は なん なん ? 」
[ 勇作 ] ・ 「 それか それはブレーキや 」
        「 手前に引けば 棒が地面に当たって 遅く成るんや 」
        「 啓太 俺がソリを引っ張ったるから いっぺん乗ってみ~ 」
啓太は 満面の笑みを浮かべ 林檎箱の中にチョコンと納まった
[ 勇作 ] ・ 「 ええか~ いくぞー 」
勇作は ソリに繋いだ縄を肩に掛けると 勢い良く走り出す
[ 啓太 ] ・ 「 ハハハハー 」 「 速い! 速い! 」
        「 もっと もっと 」
[ 勇作 ] ・ 「 このまま 寺まで行くぞー 」
        「 ちゃんと摑まってろ 落っこちるんじゃねぞー 」
お寺に差し掛かった頃 啓太のいたずら心が ムズ ムズと湧き上がる
ブレーキ棒を少し引いてみた ・・・勇作は気づかない様だ
もう少し引いてみた!! 縄が ピーンと張り 一気にスピードが落ちて 勇作がつんのめる
[ 勇作 ] ・ 「 啓太 ! 」
[ 啓太 ] ・ 「 アハ・フフフフ 」
[ 勇作 ] ・ 「 もう 乗してやらんぞ 」
[ 啓太 ] ・ 「 ごめんなさい・・・勘弁して下さい お願いします 」
Photo_22

すっかり しょげかえっている 啓太の頭を かすめる様に雪玉が飛んで来た
飛んで来た方向に目をやると 板塀の影に緑色のジャンバーが見えた
[ 啓太 ] ・ 「 雄一の奴 や~ぁ~ 」
雄一は 板塀から顔を出すと「 勇作兄ちゃん お寺で雪合戦しよう 」
[ 勇作 ] ・ 「 おぅ 」 「 三人でするんか~ 」
[ 雄一 ] ・ 「 孝介もおるよ 」
三人は ソリを引きずりながら寺の境内に入って行った
境内に入ると 孝介が待ち構えていた様に 「 お~い 」と手招きをする
[ 勇作 ] ・ 「 雪合戦するんか~ 」
[ 孝介 ] ・ 「 勇作にいちゃん 俺と雄一が組むから二対一でええか ? 」
[ 啓太 ] ・ 「 なんで 二対一やの 」
[ 孝介 ] ・ 「 啓太は 勇作にいちゃんの付録やから数に入らん 」
[ 啓太 ] ・ 「 ん! も~・・・」と 雪を踏みつけて 地団駄する
        「 そんなら 一夫君 呼んで来て 仲間にして良いんやな ! 」
[ 孝介 ] ・ 「 ええよ ええよ 」
[ 啓太 ] ・ 「 一夫君 呼んで来る 」と言い捨てると                   
毎度の如く大きな長靴で ガッポ ガッポと走り出す
一夫の家は お寺から僅かの距離に建っており 程無く 啓太は家の前に立ち止まると
大きな声で 「 一夫君 」と叫ぶ 
雪の静けさの中 良く通る高い声であった 
暫くして 玄関から顔を出す一夫に向かって すかさず声を掛けた
[ 啓太 ] ・ 「 早よ~ 早よ~ 」「 孝介に雪玉ぶつけたろうと思うから 手伝おてくれ 」
[ 一夫 ] ・ 「 ちょ ちょと待って 」「 今 ジャンバー着るさけ 」
急かす啓太と共に境内に入った二人の眼前では 
既に双方共 松の木の下に陣が敷かれ臨戦態勢に入っていた
[ 勇作 ] ・ 「 来たかー 」
        「 啓太と一夫は まず 雪玉をいっぱい作るんやで 」
[ 啓太 ] ・ 「 雪玉貯まったら 僕も投げて良いんやろ 」
[ 勇作 ] ・ 「 おぅ ! 」
いきなり先制攻撃の一発が 一夫に当たると 後は無数の雪玉が飛び交う戦闘状態に突入してゆく
啓太は 雪玉を作りながら 時折 雪玉を投げるのだが なかなか当たってはくれない
そんな交戦中に 相手陣の松の枝に雪が積もっているのを見つけた( あれを 落してやろう )
だが 思いとは裏腹に啓太の投げる雪玉は途中で失速して届いてくれない為
考えだけの愚策に終わろうとしていた
[ 勇作 ] ・ 「 啓太 何しとるー 」
[ 啓太 ] ・ 「 あの松の雪を落としたいんや  」
[ 勇作 ] ・ 「 へたくそ 」
        「 よぅ 見とれ~ 」
勇作の 投げた雪玉は啓太が狙っていた枝より 二・三本 上の枝に見事に命中した
すると 松の枝から雪の塊が少し落ち その雪が 更に 次の枝雪を落とし 
次々と雪の量は増えていった
 パサッ  バサッ  ドサッ!
真っ白い雪煙りが舞い上がり
「 ワー 」「 ワー 」と言うざわめきと共に 雪合戦の幕は引かれる事と成った
やがて 子供達は連れ立って 
寺の炊事場のかまどで冷え切った体を温めようと 勝手口の方に周って行く
もし 間が良ければ 仏様のお下がりのお供え物を 和尚さんから頂ける事 しば しばである
和尚さんと言っても 兼業農家で兼業坊主のどっちが本業かは判らない
子供達は 炊事場に入り込んだが
生憎かまどには火が入っておらず 和尚さんも留守の様であった
仕方なく皆が引き返そうとした時 和尚さんが 丁度 勝手口から入って来た
「 子坊主ども 来とったかー 」
子供達の 期待に満ちた視線を感じてか「 残念じゃが 今日のお下がりは無しじゃ ! 」
「 そろそろ昼時じゃから 昼餉の用意をせにゃいかん 」
「 お前達の とっさま かっさまも待っておろう さっさと めし食いに帰るんじゃな~ 」
勇作は ソリをプレハブ小屋に納めると 皆に向かって話し出した
「 みんな ! ソリに乗せたるから 昼めし食ったら ここに集まるんやで~ 」
「 集まったら 皆で 孝介んちの 砂利置場に行こう ! 」
孝介の家は 土建屋を生業としており 山裾の一角に 砂利置場を設けていた
勇作は その砂利山の斜面で ソリ遊びをしようと言うのである
「 うん ! 」「 了解 ! 」「 う・ん 」「 わかった ! 」
子供達は 口々に返事を返し それぞれの家へと帰って行く
啓太も勇作の後を ガッポ ガッポ と帰路に就く
「 ただいまー 」 「 お帰り 」
家に帰ると とうちゃんは もう昼御飯を済ませたのか
                     こたつに入って のんびりと煙草を吹かしていた
その隣に居た かあちゃんは手拭いを畳む手を止めると      
「 今 お味噌汁 温めるから ちょっと 待っててな 」と言って 台所へ向かった

Photo_23

啓太は 湿った手袋を こたつの中の格子に掛けながら
[ 啓太 ] ・ 「 とうちゃん 聞いて 聞いて 」
        「 ソリが出来上がったんやで~ 」
        「 そんでもって ご飯食べたら みんなで滑りにいくんや  」 
[ 父 ] ・ 「 そうか そうか よかったな~ 」
父の言葉に 尚一層の高揚感を募らせる啓太であった
母が 温めた大根の粕汁を食卓に置くと 甘い香りが鼻とお腹をくすぐる
早速 食器棚から自分のお茶碗とお箸を取り出し                 
ご飯の入った おひつを探すが 中々見つからない
ようやく見つけた おひつは隠れる様に こたつ布団に包まって温たたまっていた
ご飯を盛りつけ 食事をしながら 母にも又 ソリの話を聞かせる啓太だった
食事も終わり こたつから手袋を取り出したが まだ半乾きであったが
それでも構わず手袋をはめると 玄関に行き 長靴の中の湿った新聞紙を取り換え
[ 啓太 ] ・ 「 いってきまーす 」と言い残し
啓太は気忙しく 七木家にも寄らず真っ直ぐに お寺に向かって歩き出すのであった
境内のプレハブ小屋に入ると そこには既に 孝介と一夫が来ており
皆を待つ間 卓球に興じて居たのだが 一夫は 啓太の姿を見止めると
[ 一夫 ] ・ 「 啓太 替わろーか ? 」
[ 啓太 ] ・ 「 うん ! 」Photo_24

啓太は 卓球が得意な方だと自負していた 
ラケットも ゆり子ねえちゃん[ 七木ゆり子 ]のおさがりではあるが
赤いラバーの マイ・ラケットを小屋の中に置いている
試合が始まると 孝介は チビの弱点であるネットプレーに終始するが              
啓太もカット戦術で そこそこにしのぎ 一進一退を繰り返す
やがて 勇作もフレハブ小屋にやって来ては 二人の熱戦を見ながら
[ 勇作 ] ・ 「 孝介 ちまちま やってねーで バシッと行け ! 」
        「 バシッ と ! 」
[ 孝介 ] ・ 「 啓太の玉は ひねてるから やりにくいんじゃ 」
[ 勇作 ] ・ 「 替われ 替われ 俺がやっつけちゃる 」
        「 見てろ ! 啓太なんぞ ひとひねりじゃ 」
横からいきなり参戦した 勇作は事もなげに 啓太の玉を卓球台に思いきりたたき込む
[ 啓太 ] ・ 「 うわー 」
[ 勇作 ] ・ 「 まいったか ! 」
まったくもって 容赦の無いガキ大将である
そう こう している内に 雄一もやって来て 全員が揃う事となった
[ 勇作 ] ・ 「 みんなで 孝介んちの砂利置場まで ソリを引いて行くぞ 」
皆は 綿雪の舞う いつもの通学路を山裾の砂利置場に向かって ソリを引きながら歩き出す
砂利置場に着くと 
さっそく勇作は「 あの上から滑ろう 」と 砂利の上に積もった雪の小山を指差し
[ 勇作 ] ・「 まず最初は俺が滑るから 後の順番はじゃんけんで決めとけ 」
勇作に言われるまま 四人は顔を見合わせると
 「 じゃんけん ほい 」 「 ほい 」
 「 あいこで ほい 」 「 ほい 」 「 ほい 」
[ 孝介 ] ・ 「 俺 勇作にいちゃんの次や 」
[ 一夫 ] ・ 「 三番手は 僕や 」
[ 雄一 ] ・ 「 その次は 俺やでー 」
残念な事に 啓太は尽く じゃんけんに負けてしまうのであった
まずは 勇作がソリに乗り滑り降りたが 新雪の上では あまり良く滑り下りる事は無かった
勇作が 雪の小山にソリを引っばり上げると              
次は 孝介 その次は 一夫といった具合に滑り降りて行く
雄一が滑り降りる頃には 雪も踏み固まり 徐々にスピードが増して来た様に思えた
いよいよ 待ちに待った 啓太に順番が回って来た
不安定な小山の頂上に置かれたソリは             
ともすれば 誰も乗せずに勝手に滑り出すのではないかと思われ
[ 啓太 ] ・ 「 勇作にいちゃん 僕が乗るまで ソリを押さえててやー 」
 ・・・    「 もう いいよー 」
[ 勇作 ] ・ 「 ええか ! 」 「 放すぞー 」
勇作の手から放たれたソリは ゆっくりと斜面を滑り降りて行き そのスピードを上げていった
傾斜の終わり近くでは その速度に耐えきれず 啓太は思わずブレーキを 目一杯引いてしまう
すると忽ち 斜面に突き刺さったブレーキ棒を支点に ソリは真横を向いてしまい
それと供に 啓太はソリから放り出されてしまった
[ 勇作 ] ・ 「 啓太 !  だいじょぶか~ 」
[ 啓太 ] ・ 「 アハ・アハハハ ・・・ 」
転げ落ちようが 顔が雪に埋まろうが 何とも楽しいソリ遊びである
子供達は 歓声を上げながら 何度も至福の時を過ごすのであった
しかしながら やがて時はうつろい
遠くの町役場から 夕方の五時を知らせるチャイムが かすかに聞こえてくる

Photo_25

[ 勇作 ] ・ 「 みんな そろそろ仕舞も~て 帰ろ~か ? 」
[ 啓太 ] ・ 「 え~ ! 」
[ 孝介 ] ・ 「 まだ 帰りとーない ! 」
[ 啓太 ] ・ 「 もっと 遊んでいたいんやー 」
勇作は 強い口調で「 だめや ! 皆家に帰って しないかん事が有るやろ 」
「 一夫は鶏に餌やらないかんし 雄一は 太郎[ 柴犬 ]を散歩させなあかん 」
「 啓太も風呂焚きを するんやろ 」
「 決められた約束事は ちゃんと 守らないかん ! 」
勇作は 大人びた自分の発言に少し酔っている様にも思えるが
皆は渋々 勇作に従い 家路に就く事と成った
ソリを引いての帰り道 ようやく お寺が見える所まで差し掛かると
[ 一夫 ] ・「 僕は此処で また明日遊ぼうな~ 」と言っては帰って行く
ソリをプレハブ小屋に片付け終わると         
孝介が 「 勇作にいちゃん 俺と雄一は 寺の裏の方から帰るから 」
    「 バイ・バーイ 」
雄一も  「 ほんじゃ さいなら また明日 」と言い 立木の影に姿を消していった
取り残されたかの様な二人を包むように 雪は激しさを増し降り出して来た
[ 勇作 ] ・ 「 帰ろっか 」
[ 啓太 ] ・ 「 うん 」
やがて 七木家の前まで辿り着くと
啓太も又「 勇作にいちゃん また明日 バイ バーイ 」と言いながら家に駆け戻った
自宅にはいると 母がお風呂に水を運んでいる姿が目に留まり
[ 啓太 ] ・ 「 かあちゃん ただいま~ 」「 お風呂の用意は僕がするから 」
        「 お腹空いたから ごはん! ごはん! 」
その日のお風呂と夕飯を済ませ 後は 遊び疲れた体を布団の中に潜り込ませる作業だけである
寒い日は よく とうちゃんの布団で眠り込んでしまう事が多い
とうちゃんの体温で温まった布団の中で とうちゃんとしりとりをしながら眠りに就くのだが
今日は しりとりもそこそこに いつの間にか眠ってしまった啓太であった

 

 

 

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