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啓太の一日 ( 鮎 )

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以前 勇作の父[ 太一 ]の提案で 夕涼みがてら
ゴリ[ ハゼの仲間 ]を取りに行こうという話に成って
太一の運転するトラックで とうちゃんと共に 少し離れた一級河川まで出掛けた事が有る
このような形で とうちゃんと屋外で過ごした事は滅多に無かった為 良く覚えていた
一行は 勇作と太一 啓太と父の四人連れで 河へと向かう事と成った
河に到着すると 七木家親子は 早速 網とバケツを携えて河へと降りて行った
啓太は河縁に 背の低い草むらを見つけると 目の見えない父の手を取り 其処へ誘った
[ 啓太 ] ・「 とうちゃん 此処に座ろ~ 」
ふたりは並んで 草むらに腰を下ろし 
しばらくの間 遠くから聞こえる列車の音や虫の音に 耳を傾けて過ごしていた
家を出る頃には夕焼け空であったが 今は 夜空に月が昇り 月明かりが水面を照らしている
啓太が 河に入った勇作達を ぼんやりと眺めて居ると
とうちゃんが「 啓太 河に入って見様か 」
「 河の中まで 連れてっておくれ 」と言い出し ズボンの裾を捲り上げた
丁度 自分も河に入りたくて ムズ ムズしていたので 是幸と とうちゃんの話に乗った
父の手を引き河原へ下り 其処で靴を脱ぎ 白く波立つ浅瀬を選んで河の中へと入ってゆく
川岸から2~3m入った所で とうちゃんが急に立ち止まってしまった
[ 父 ] ・ 「 啓太 ちょっと待ってくれ 」と言い 
腰を少し屈め 両手を足の踝辺りまで水の中に沈めると 暫くその体制のまま 一歩も動かない
啓太は父の奇妙な行動に「 足でも切ったんかー 」と問いただすと
[ 父 ] ・ 「 啓太 ほら ! 」
とうちゃんは ゆっくりと啓太の眼前に 先程まで水に浸けていた手を差し出して見せる
何事かと父の手に視線を移すと 両手に包まれた手の中で鮎が ビク ビクと蠢いていた
[ 父 ] ・ 「 啓太 さっさと受け取れ 」
啓太は いきなりの出来事に慌てて「 ちょ ちょっと待って 」と言い
周囲を見廻し 近場に居た 太一の元へ水しぶきを上げながら駆け寄っていった
[ 啓太 ] ・ 「 太一おじさ~ん バケツ バケツ 」「 鮎や鮎 」
[ 太一 ] ・ 「 バケツは勇作が持っとるんやが 」「 どうしたんやー 」
[ 啓太 ] ・ 「 とうちゃんが鮎 捕まえたから バケツがいるんやー 」
[ 太一 ] ・ 「 えっ! どうやって捕まえたんや 」
[ 啓太 ] ・ 「 分からんけど 今 とうちゃんが手に持っとる 」
[ 太一 ] ・ 「 お~い勇作 バケツ持ってこーい 」
バケツを持った勇作が近くまで来ると
太一は「 啓太の父ちゃんが 鮎を捕まえたらしいぞ 」と話すのだが
[ 勇作 ] ・ 「 ほんまか~ 嘘やろー 」「 啓太 嘘吐いたらあかんでー 」
[ 啓太 ] ・ 「 嘘なもんか ! 見たら分かる 」
三人は連れ立って 父の元へと歩き出した
やがて 父の手からバケツに放たれた鮎を見て 太一も 勇作も感嘆の声を洩らした
啓太は得意げに 「 なぁ 嘘やないやろー 」
[ 太一 ] ・ 「 角川さん どうやって捕ったんですか ! 」
            「 なんで そんなことが出来るんですか !  」
[ 父 ] ・ 「 偶々 鮎が手の中に入ってくれただけですよ 」
しかしながら 鮎を素手で捕まえる事など 奇跡に近い所業ある
父は皆の言葉に気を良くしたのか 再び腰を落とし 両手を水の中へと沈めていった
そんな父の姿を 啓太は期待に胸弾ませ 暫くの間 じっと見つめていたのだが
[ 父 ] ・ 「 あ~ 腰が痛とうなった 」
      「 もう 仕舞いやー 啓太 岸まで連れてってくれ 」
[ 啓太 ] ・ 「 とうちゃん もう一匹だけ もう一匹だけでいいから捕まえて~な 」
[ 父 ] ・ 「 無理や ! もう河から上るぞ 」
啓太は 落胆の表情を浮かべた後 一瞬 恨めしそうに父の顔を覗き仰ぐと 
やがて 思い直したかの様に 父の濡れた手を取り 河原へと歩き出した
角川親子に合わせる様に 七木親子も又 ゴリ捕りを切り上げて河から上って来る
帰りのトラックの中では 鮎の話で盛り上がっていた
啓太も この話を 早くかあちゃんに聞かせたくて ウズ ウズして落ち着かない
トラックが啓太の自宅前に着くと
太一はバケツから鮎を新聞紙に取り分け 啓太に手渡しながら 父に向かって
「 美味しそうな鮎と 良い土産話が出来ましたな~ 」
「 ゴリの方も 佃煮にしたら 勇作に届けさせますから 今日は此処で失礼します 」
啓太は 家に入ると 早速 新聞紙を開けて中の鮎を 母に見せると 
次から次へと 先程までの出来事を話しだした
鮎を塩焼きにする最中も 母に纏わり付く様に 延々と喋り続ける啓太であった
程無く 卓袱台の上に焼き上がった鮎が置かれ                  
母が身を解し出すと 啓太は箸で解された身を摘み
[ 啓太 ] ・ 「 とうちゃん 」「 あーん して 」
あの時の 照れ臭さそうに口を小さく開けて待っている父の顔を思い出すと 嬉しく成って来る

 

 

 

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