« 啓太の一日 ( 山道 ) | トップページ | 啓太の一日 ( 雪遊び ) »

啓太の一日 ( がまぐち )

Photo_19「 ただいまー 」 ・ ・ ・ 「 かあちゃ~ん 」 ・ ・ ・
母はどうやら 何処かへ出掛けてしまっている様である
啓太は 居間の隅にランドセルを置き 冷え切った体を温めようと 掘りごたつに潜り込み
こたつ布団に包まったまま こたつの上板に自分の顎を乗せ               
何思うでもなく しばらくの間 ぼんやりと過ごすのであった
ようやく 体も温まり 思考の活動と共に視野は徐々に定まり 目のピントが合つてくると 
啓太の顔の正面には 母の小銭入れの がまぐちが置かれているのが目に入った
更には 口の開いた がまぐちの横には 十円玉が一枚出ている
その十円玉をじっと見つめながら しばらく体を もぞ もぞとさせて居た啓太だが
やおら 掘りごたつから立ち上がり 玄関に向かう                
しかも その手の中には しっかりと十円玉が握られている
手に持った 十円の使い道は決まっていた             
じつは 啓太君 只今 甘納豆の当て物にハマりまくっていたのであった
甘納豆が大好きと言う訳では無いのたが 一等賞の大袋が なんとも魅力的なのである
その為 ここ最近は 御駄賃なぞ貰えば すべて その当て物につぎ込んでしまっている
大人ならば 博打狂いと言った風の 角川啓太 小学一年生である
啓太が今から向かう先は 駄菓子はもちろん 文房具・食品・生活用品全般を揃え
近隣で一軒だけの 販売シェアの独占を誇る ミニ・スーパー・マーケットと言った処である
啓太は 玄関を出てお店に向かう道中
自分の罪悪感から少しでも逃れようと 思いを巡らせ 歪な思考をこじつけてゆく
( 十円玉は 落ちていたんや ! )
( 僕は 落ちていた十円玉を拾っただけや )
店の名は葵と言う 啓太はそそくさと店内に入ると
店主に「 おじさん 是下さい 」と 十円玉を渡し
糊付けされた甘納豆の小袋に慎重に目星を付け 小袋を二つ ちぎり取った
小袋の中には 一口分程度の甘納豆と 当たり・ハズレを書いた小さな紙が入っている
啓太は ドキ ドキしながら 袋から小さな紙を摘まみ出し そっと紙を開いて見た
中に書かれた文字は ハズレ その三文字以外の文字を見つける事は出来なかった
落胆の足取りは重く 軽い焦燥感に包まれながら                  
こころなしか 長靴の音も グァッポ グァッポであった
家に帰ると がまぐちは依然そのままの状態で 掘りごたつの上に置かれていた
啓太は 甘納豆を一袋 口に含み 掘りごたつに近寄ってしゃがみ込むと          
口を開けた がまぐちの中の小さな闇を じっと のぞき込むのだった
しばらくは 遠目で覗いていた啓太であったが
とうとう がまぐちを手に取り 中を覗き込む大胆な行動にでた
その刹那 背後に気配を感じて振り返り仰ぎ見ると
そこには 仁王立ちのかあちゃんが居た !
一閃 かあちゃんの持った箒が 啓太のおしりを直撃する バシャ ! 
たまらず 啓太は 縁側を抜け 外の雪の中へ飛び出してゆく
[ 母 ] ・ 「 どろぼうする手は どっちの手や ! 前に出してごらん 」
     「 とうちゃんに言って 灸して貰おう 」
[ 啓太 ] ・ 「 いやや~ 」「 灸はいややー 」
      「 ごめんなさい 」「 もう 二度としません 」「 どうか 許して下さい 」
Photo_20

一般的には お灸をすえるとは 比喩として用いるが                     
啓太の家庭の場合 物理的現実問題なのである
なにしろ とうちゃんの引き出しには 艾が 大量に入っているのだから
啓太は 未だ灸の経験は無い 経験したことが無いだけに その想像は膨らむ一方である
裏のじいちゃんが 灸を我慢している顔なぞ 思い出すだけで恐怖に凍りつく
( あれは怖い 注射なんぞよりも 余程怖い ! )
[ 啓太 ] ・ 「 堪忍して下さい お願いします 」
啓太は くしゃ くしゃに成った顔を雪の中に埋めんばかりに 平伏する
丁度その時 タイミングが良いのか悪いのか 父がのっそりと居間に現れた
[ 母 ] ・ 「 お父さん ! 」
母が父に 事の経緯をすべて話し終えると
[ 父 ] ・ 「 啓太 ! 父さんの所まで来い !」
啓太は父の言われるまま居間に上がり 父の手を自分の頭に添えて 静かに裁断を待った
そして 父の裁断が下った
[ 父 ] ・ 「 灸は勘弁してやるが 父さんが良いと言うまで そこで正座していろ 」
[ 啓太 ] ・ 「 は・い 」
啓太は 正面を見据え その場に座り込んだ 
だが 緊張感は ほんのひと時しか保てず 視線の先は何気なく台所の柱に向けられていった
その柱の一画には 啓太の手によって いくつかのマンガ・シールが貼り付けられていた
その ひとつ ひとつを眺めながら時間を費やすが 寒さが少しづつ 少しづつ啓太を包む      
足の指先が冷たく成って来た 鼻水が ポッンと膝の上に落ちる 涙が一粒膝の上に落ちる
時折 啓太の様子を見ていた母が 口を開いた
[ 母 ] ・ 「 啓太 もうしないな 」
      「 お母さんと一緒に お父さんに許して貰おうな 」
啓太は 泣きべそを掻いた顔で 小さく頷く
母に耳打ちされたのか 父が傍にやって来ては「 許しはするが 二度とやってはいかんぞ 」
そう言い終ると 手探りで啓太を抱え上げ 掘りごたつの中へと一緒に入り込む
父はこたつの中で 自分の膝に乗せた啓太の冷たい両手を 何も言わず擦り上げた
啓太も又 無言のまま父にもたれ掛かり 父が仕事に掛かるまでのひと時を過ごすのであった

 

 

 

     ↑ブログトップへ

 

« 啓太の一日 ( 山道 ) | トップページ | 啓太の一日 ( 雪遊び ) »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/579411/55081120

この記事へのトラックバック一覧です: 啓太の一日 ( がまぐち ):

« 啓太の一日 ( 山道 ) | トップページ | 啓太の一日 ( 雪遊び ) »

2017年5月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

その他の記事

カテゴリー

  • グルメ・クッキング
  • コラム
  • 家ごはん
  • 日記
  • 日記・コラム・つぶやき
  • 自作小説
無料ブログはココログ

ブログ