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啓太の一日 ( 山道 )

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「 ハァ ハァ 」啓太は山道を うつむき加減で ただひたすら歩いていた
( 僕は 何でこんな所 歩いているんじゃろ )
( 山の上は まだ 遠いんかな~ )
事の起こりは 帰り道での出来事であった
今日は夏休みに入る最後の修了式で 授業も無く 早々に学校を後にし 家路についた
帰り道は同じ地域の 三年生の[ 孝介 ]と[ 雄一 ]
更に 同じ一年生の[ 一夫 ]君たちと 四人で仲良く帰っていた
帰り道を共にする四人は それぞれ多様な性格を持っている
[ 聖 孝介 ]は 口が悪いが 行動的で 自分は勇作に次ぐ №2であると思っている節があり 
次に [ 山田 雄一 ]は落ち着いた性格で どちらかと言えば無口な方である
[ 島村 一夫 ]は協調性に富み 誰とでも仲良くなれる ちゃかり者の側面を持っていた
そして [ 角川 啓太 ]は 感受性が強く 幼く優しい性格を有してはいるが
意固地な所が見え隠れすると言ったところであろうか
通学路の林を抜けた辺りで 急に孝介が走り出した
啓太達 三人が何事かと見守っている中 孝介はいきなり崖を飛び降りた
崖と言っても 3m少しの石垣なのだが 子供達にとっては大いなる崖なのだ
下の方から声が聞こえた「 お~い 」「 みんな 早よ降りてこ~い 」
石垣の下には畑が広がっており 着地に失敗したとしても                   
大けがと言うような心配は まず 無いであろう
三人が下の方を覗きこむと 孝介がズボンの土を払いながら立っている姿が目に入る
孝介の側らの畑には      
二つの足跡と尻もちを付いたであろうと思われる くぼみがくっきりと付いていた
程無く 孝介の声に答える様に 雄一・一夫が続いて飛び降りると
次の瞬間 一夫の叫び声が聞こえた「 啓太~ ちょっと待ってくれ~ 」
啓太が覗き込むと 一夫君が なにやら せっせと拾い集めている             
どうやら 着地の時 ランドセルから中の物が飛び散ってしまった様である
一夫は 筆箱やノートをランドセルに収め終わると「 も~ い~ ょ~ 」と啓太を促した
啓太は助走を付けて飛び降りると思いきや 崖の手前で足が止まってしまった
( 怖くない 怖くない )と 念じながら
再度 意を決し飛び降りようとするのだが どうしても 飛び降りる事が出来なかった
「 啓太~ 」 下の方から雄一の声が聞こえたが
啓太は何を思ったか ? 急に踵を返し 来た道を逆に歩き出す !?
此の時 啓太の頭の中は とんでもない考えが支配していた
( このまま飛び降りずに 皆の所へ行けば「 弱虫 」と言われる )
( 孝介なんぞは 絶対に言い出すに決まってる )
( このまま みんなと顔を合わせたくない )
( そうだ みんなと違う道を通って帰ろう )
( 山向こうの道から 帰ればいいんだ )
などと 突拍子も無い結論を実行に移してしまっていた
一度 思い込んだ行動は歯止めが利かず 
すでに 山向こうとの分かれ道まで 早足で戻ってしまう 啓太だった  
無謀にも まだ一度も通った事の無い道を行こうとする 難儀な小学一年生である
山向こうの道沿いには 川が流れており              
川の土手には うっそうとしたススキの葉が風にたなびいていた
啓太は その川沿いに ズンズン ドンドン歩いて行く
やがて川の流れは 山の方から少しづつ離れてゆく様子なのだが 
啓太には川向うに渡るすべが無い
川の流れ自体の幅は 一メートルにも満たないが          
流れの速さは 啓太が日頃 目にする川とは比べるも無く 速い!
多少 不安な気持ちが脳裏を過ぎるが それでも 自我の赴くまま歩き続けていた
だが しかし 歩く速度は やはり鈍りがちの様である
歩きながら遠くに目を凝らすと ようやく 橋の様な物が かすかに見えた        
足取りは元に戻り 橋と思われる所を目指して 啓太は尚も歩き続ける
ようやく目指す場所に たどり着くと 
そこには 大きな丸太を半分に割った物が 四本並べて 川に掛っていた
啓太は その素朴だが頑丈そうな橋を渡り 辺りを見回した
自分の立っている場所から 
正面に見えている山に向かって 細い一本道が伸び 周りには水田が広がっている
振り向くと 先程渡った橋から やや離れた南側に この近辺の農家であろう集落が見えた
一本道を しばらく歩くと 山裾の辺りには 
啓太が今まで見たことも無い 豪華な緑のジュータンを敷詰めた様な草原が広がっていた

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啓太は この景色に見とれながら            
( ここは 僕の秘密の場所や ! )と ひそかに 心の中に刻むのであった
心躍る様な風景に 気持ちの赴くまま 草のジュータンに飛び込むと 華詳しい緑の匂いがした
啓太は ゆっくりと起き上がり 傍らにランドセルを置くと 大の字に寝そべってみた
( 遠くから 小鳥の さえずりが聞こえる )
( 青い空に 筋雲が 架かっている )
( 柔らかな風が 草原の香りを 運んで来る )
山の向こう側には 自分の家が有る! と 確信めいた安心感も手伝ってか
啓太は 何時の間にか眠ってしまった
「 ピー ヒョロロロー 」
トンビの声に ハッと目を覚ますと 陽は西に随分と傾いている
どれ程の時間を眠って居たのだろうと考えながら ふと お腹が空いている事に思い当った
啓太はランドセルから 今日 学校で受け取った集団購入の肝油を取り出し
「 あんまり食べると かあちゃんに怒られちゃう 」と独り言を言いながら
容器から肝油を 三粒程出して それを口にほうばった                     
甘い 肝油の味が 口いっぱいに広がってくる
肝油は 魚の肝臓油と言う話だが 砂糖が塗して有り                    
食感は グミ・キャンディーに似ている
空腹感を満たす程では無いにしろ 取り敢えずは帰りを急がねば 日が暮れてしまう
啓太は 早々に立ち上がると 足早に山道へと向かうのであった
山道に差し掛かると そこは けもの道と言える程の狭い道で           
中へ進むと うっそうと茂った木々のせいで薄暗く じめじめしている
道端の所々には 童話の絵本に出てくる様な 毒々しい赤いキノコが生えていた
啓太は 一本の木の枝を折ると それを振り回し          
時折 往くてを阻むクモの糸を掃いながら 山道を登って行くのだった
「 たん・たん・たぬきのきん・・・ か~ぜも 無いのに ぶ~ら・ぶら・・・・ 」
( 寝てしまった ) ( お腹が空いた ) ( 日も暮れてくる )
諸々の後悔と不安で へこみがちな気持ちを振り払らうかの様に 唐突に歌い出す啓太であった
しかしながら 道の傾斜が きつく成るにつれて 声は小さくなり 遂には途切れてしまう
「 ハア ハア 」
( 山の上は まだ 遠いんかな~ )
 ・ ・ ・・・・?   
( 目の前に 何か居る! )  ( 鼠かな ? )  ( いや 違った 野兎だ ! )
野兎は 啓太の手が届きそうな距離まで近づいた時 素早く雑木林の中に姿を消した
( 野兎なんぞ 初めて見た )
( 学校で飼っている ブタウサギなんかより 全然 俊敏で可愛いかった !! )
たった今の 出来事に興奮を抑えきれないところだが

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夕日は赤く染まり ひぐらしの鳴き声も一層多く成ってきた
山間に吹く風は ぞくっとする冷たさが有り ひぐらしは「 ケ・ケ・ケ・ケ 」と鳴いている
一般的には「 カナ・カナ・カナ 」と 聞こえるらしいが             
啓太には どうしても「 ケ・ケ・ケ・ケ 」と聞こえてしまう
振り向けば なにか 怖いものが居る様な そんな気分に追い立てられ              
うつむき加減に ただひたすら歩き続ける 啓太の姿があった
ようやく 山の頂上と思われる 一畳程の開けた場所に辿り着くと
風景は一転し 山の反対側の景色が広がっている 
山のこちら側は 間伐が行き届いているのか 比較的 見通しが良かった
啓太は 我が家の有ると思われる方角に目星を付け 覗き込むように眼を向けると
やや遠くに ガソリン・スタンドの灯りが目に入った    
そこからの道順を辿り ようやく 我が家の屋根らしき物を見つけることが出来た
更に 視線を下に向けると 急な斜面の木々の間から見慣れた通学路が見えるではないか
( あと少しで 家に帰れる ) 啓太は 通学路めざし 道なき道を駆け降りる !
見通しは良いのだが 斜面の上に積もる落ち葉を踏むと                                       
何度となく ずり落ちては 尻もちをついてしまう
そんな こんなで 通学路に降り立った頃には すっかり日が暮れてしまっていた
あとは 通い慣れた通学路をもう少し歩けば家に戻れると思えるが さすがに 足も重く 
今更ながらに自分の行いを後悔する始末である
ガタガタで ヘトヘトな足を踏み出す度に 泣きそうに成ってくる
それでも やっと 我が家の明かりが見える所まで やって来れた

Photo_16( あれ !? 誰か居るぞ )
家の玄関先には 四・五人の人々が集まっており 目を凝らすと その中に母の姿を見つけた
( かあちゃん ! ) ( かあ~ちゃん ! )
声にならない思いが先走る !
後は もう何も分からず  一目散に母の胸に飛びむ 啓太の姿があった
( 温かい匂いがした )
啓太は 声を上げて泣きじゃくる ただ ただ 泣きじゃくる ばかりである
ひとしきり 泣き終えた頃 ふと顔を上げると
母の肩越しから 裏のじぃちゃん( 武田九衛門 )が 啓太の顔を覗き込むように近づて来た
啓太は 何か聞かれるのだろうと じぃちゃんの言葉を待ったが
言葉より先に 真上から げんこつが飛んで来た
「 心配かけよって 」
「 とうちゃんの 代わりじゃわい 」と言い放つと 笑いながら去って行くのである
啓太は 可笑しくも何とも無いと思いながら 頭を抱えて蹲るが
それを見計らった様に 集まった皆の中から笑いがこぼれ出した
「 良かったのう ! 」「 良かった 」「 良かった 」
集まった人々は 口々に 母に声を掛けながら 其々の家に帰って往く
かあちゃんは 皆が居なくなるまで 何度も頭を下げて 人々を見送るのだった
周りに誰も居なくなると ようやく
「 家で心配してる とうちゃんに ちゃんと謝るんやで ! 」
かあちゃんは 玄関の戸を開けると
啓太を先に入れて とうちゃんの処へ行くようにと促す
とうちゃんは 床の間の柱に もたれるようにして あぐらをかいていた
「 ただいま~ 」
声を掛けると しばらく・・・ 間を置いて ようやく とうちゃんは
「 帰ったか・・・ 」と ぽつりと声を漏らす
目の見えない父は 自分で啓太を探しに行けない事への歯痒さを どれ程感じていただろう
そんな父の思いを 知ってか 知らずか
[ 啓太 ] ・「 ごめんなさい 」
      「 とうちゃん ! ごめんなさい 」
泣き声混じりで 頭に浮かぶ ありとあらゆる言い訳を                                          
父に聞いてもらおうと語りかける啓太だが
いつの間にか 軽快な口調とともに 話の内容は冒険談へと すり替わって行き
遂には 口がすべり 秘密であるはずの草原の話にまで及んだ
「 あっ ! 」
「 とうちゃん 今の草原の事は 秘密にしてな~ 」                          
「 誰にも言わんといてな~ 」
先程まで 無表情で静かな佇まいであった父も ようやく 少し笑みを浮かべながら 啓太に答えた 
[ 父 ] ・「 秘密にしとくさけ~ 今度 とうちゃんもそこで昼寝さしてくれるか ? 」
[ 啓太 ]・「 うん ! 」
     「 だから 絶対のぜったいに 秘密やで~ 」
後ろの方から 母の声がする「 いつまで そんな恰好してるの 」
啓太は 未だランドセルを背負ったままで 着ている服も かなり薄汚れていた
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[ 母 ] ・「 さっさと着替えて こたつの上の おにぎりを食べとき~ 」
[ 啓太 ]・「 う~ん 」
     「 かあちゃ~ん もう ねむたい ! ・・・」
[ 母 ] ・「 そう~ か~ 」
     「 そんなら とうちゃんの布団が敷いてあるさけ~ 」
     「 先に そこで寝とき~ 」
啓太は その場にランドセルを下ろすと 
母の用意した寝巻に着替え 這ったまま 父の布団に潜り込んだ
( 煙草の匂いがする ) ( とうちゃんの匂いがする )
やがて 睡魔に誘われるまま 啓太は 深い 深い眠りに落ちて行った
父は 啓太の寝息が聞こえて来ると 手探りで静かに啓太の頭を撫でながら
小さな声で「 長い一日やったな~ 」と呟く
そんな父の隣に 母も座り込み
「 これからも まだ まだ いろんな事があるんやろな~ 」
「 ほんま こまった子や ! 」と ため息交じりに話すのであった
両親の思いなぞ 知らぬ存ぜぬと からかう様に 啓太は大きないびきを掻き始める
[ 父 ] ・「 先の事を いくら心配しても始まらんと言うとる様な いびきやな~ 」
[ 母 ] ・「 そや ね~ 」
二人揃って ため息を吐く 夜更けであった
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