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2012年6月25日の1件の投稿

啓太の一日 ( 運動会 )

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「 啓太 何 愚図愚図してるの 運動会、始まってしまうよ 」
「 うん、鉢巻がうまいこと巻けんのや 」
「 どれ 見せてごらん 」
「 母ちゃん、真っ直ぐに かっこよー巻いてなあ 」
「 注文の多い子やね 」「 ほら、これでええやろ 」
「 うん 」
「 僕のかけっこは 三番目やから 間に合うように 早よう来てなっ 」
「 それと お弁当とバナナを忘れんといてな 」
「 分かったから、早よ行きなさい 」「 はーい 」
「 いってきま~す 」
ワー、ワー、・・・ガンバレー、・・・ワー ワー
運動会では 各競技ごとに 成績に従って 先生方が腕に小さなスタンプを押してくれる
最終的には 全員いくつかの スタンプが押されるのだが
子供達は 此のささやかなステータスを より多く獲得しようと
必死に 競技に臨んでいた
啓太も又 この雰囲気の中 自分の出番を 今か、今かと待ちわびている一人である
クラスの中でも身長が一番小さい啓太だが、かけっこには相当の自信を持っている
もし、一等賞を取れば スタンプを三つ押して貰えるのだから 意気込まずには居られない
保護者の観覧席に 勇作の父母と共に 母ちゃんの姿が見えた 
啓太は 隣に座っている 一夫君に声を掛けた
「 家の母ちゃんは来とるけど 一夫の所の母ちゃんは何処に居るん 」
「 ほら、あそこ 」「 あっ、おった おった 」
「 お昼までに スタンプをいっぱい集めて お昼に見せ合いっこしような 」
「 うん、お昼ごはん食べ終わたら 啓太ん所に行くさけ 」
「 よーし、一夫より いっぱいスタンプ集めたるぞ 」
ワー、ワー、ガンバレー、
いよいよ、一年生の50m走が始まった
一夫君は一番最初の1組目で走り、啓太は 3組目に走る順番である
ガンバレー、ガンバレー
一夫は二番手で駆け抜け スタンプを二つ付けて貰い 得意満面で帰ってきた
「 一夫、スタンプ、付けて貰ったんかー 僕にも見せて 」
「 いいな~ 僕も 早く スタンプが欲しいよん 」
さて いよいよ 啓太の走る順番と成った
「 位置について ヨーイ 」
啓太は 前傾姿勢で準備万端  パァーン、
小さなエンジン、フル稼働で 走る 走る 独楽鼠の如く スタートダッシュも軽やかに
ゴールのテープが 目の前に迫り これで スタンプ三つをゲット
と、思った刹那 ゴール手前で 一番身長の高い 吉田君に抜かれてしまった
スタンプ係の先生に「 ハァ、ハァ、先生、僕、ほんまに 吉田に負けたん? 」
「 残念やったね~、本当に後 ほんの少し タッチの差で 一等賞やったのに 」
啓太は 腕に付けられたスタンプを眺めながら
            後幾つスタンプが貰えるのか 数えだしていた
( え~と、団体遊戯でひとつ、綱引きと玉入れ、其れとリレーで
       赤組が勝てばみっつ 今有るふたつを足すと 全部でむっつ付けて貰える )
啓太は 負ける事等 これっぽっちも計算せず
            なんとも 虫の良い事しか 考えては居ないのである
運動会も 要約、午前の部が終わり 啓太の腕には みっつのスタンプが押されていた
子供達は 楽しみにしていた お弁当を食べる為 それぞれが観覧席に向う
観覧席では 各家庭というより
   隣近所の小さなコミュニティごとに 花茣蓙を敷き 子供達を迎え入れるのだ
啓太が 観覧席に近づくと 太一( 勇作の父 )が 声を掛けた
「 啓太、惜しかったなー あと少しで 一等賞だったのにな 」
「 うん、僕も 一等やと思ったんやけど 吉田君に負けてしも~た 」
「 母ちゃん、バナナは? 」「 お腹 ペコペコや バナナ出して 」
啓太は バナナが大好きである したがって 運動会の一週間前から
                       既に 母と約束を取り付けていた
「 バナナは おにぎりを食べてからにしなさい 」
「 は~い 」
啓太が おにぎりをほうばって居ると 勇作が駆け込んで来た
「 おっ、啓太は もう 飯食ってんのか 」
「 俺ら上級生は 後片付けが有るから 忙しゅうて かなわん 」
「 勇作兄ちゃん、 勇作兄ちゃんは スタンプ、幾つ付けて貰ろうたん 」
「 ん、四つやけど 」
「 ええな~ 僕は 未だ三つしか押して もろてへん 」
「 そんなん 午後から 俺が がんばって 赤組が勝てば 直ぐに増えよる 」
「 うん、そうやな 」
「 母ちゃん、バナナ、バナナ出して 」
「 はい はい 勇作兄ちゃんにも あげるんやで 」とバナナを四本、啓太に手渡した
啓太は ちっこいけど バナナを二本 平らげ
「 勇作兄ちゃん、はい 」と 残りの二本を勇作に手渡す
「 ありがとう 」「 啓太は もう ええんか? 」
「 うん 」
「 母ちゃん、一夫君の所に行って来る 」
云い掛けて 立ち上がろうとすると
( あれ、なんや 真っ暗や )
「 啓太 」「 啓太、」「 どうしたんや 啓太! 」
( 母ちゃんの声が 遠くから聞こえるし なんや 力が入れへん )
太一・「 う~ん 熱は無いみたいやが とりあえず 車で家まで連れて帰ろう 」
「 スミ( 勇作の母 )、学校の電話を借りて
             診療所の先生に 角川さんの家まで 往診に来て貰え 」
「 はい 」
タッ、タッ、タッ、タッ・・・・
啓太がぼんやりとした意識で 薄目を開けると 傍らに 父の姿が在った
「 父ちゃん・・・ 」「 なんやっ しんどいんか? 」
「 う~ぅん なんか 重たいもんが 上に乗かってるみたいで・・・ 」
見上げている 天井の木目が なんだか恐ろしげに見えて それが 目の前に迫ってくる
「 うぅぅん 」
「 啓太、父ちゃんにおぶさってみるか? 」「 少しは 楽かも知れんぞ 」
「 ぅん 」啓太は父の背中に ゆっくりと這い上がった
「 もうすぐ 診療所の先生が来るから 我慢しぃなっ 」
父ちゃんの匂いがした・・・ 啓太は 父の背中に顔を埋め 又静かに目を閉じた
次に 目が覚めると いつの間にか布団に寝かされ 片方の腕を診療所の先生が握っていた
「 啓太、目が覚めたか? 」
「 おっ、三つもスタンプを貰ろうて がんばったんやな
               ちょっと チクッとするが 我慢出来るな 」
「 啓太、少しお腹を押えるぞ、痛かったら言うんやでー 」
徐に 先生は啓太のお腹のあちこちを押える「 グフッ、ウゥゥン 」
「 お母さん、啓太君に この薬を飲ましたって下さい 」と母に錠剤を渡した
母は 啓太の口に錠剤を含ませ 水を飲ませようとするが
「 いやにゃ~ 大きぃくずりは 呑まれえん 」と錠剤だけを舌先に出してしまう
「 がんばってな ほら もういっぺん お水と一緒に飲んでごらん 」
「 どまれへん 」「 うわ~ん 」「 えぇん、わ~ん 」
それを見かねた先生が「 お母さん、この錠剤を潰してみて貰えますか 」
母は 台所で 袋に入った錠剤を 出刃の柄で叩くと すぐさま、啓太の元へ戻ってきた
「 啓太、あ~ん、してごらん 」「 はい、お水、」
「 今度は飲めるといいねっ 」
「 ほら、飲めた、かしこかったねー 」「 ヒック、ヒック、・・・」
「 先生どうも ありがとうございました 」
「 今の所、なんとも言えませんが しばらく様子を見ることにしましょう 」
「 もし、なにか有りましたら 直ぐに 診療所の方に連絡して下さい 」
うつろう意識を漂い 小一時間も経った頃
「 かあしゃ~ん 」「 グポ、グゲ、グゲー、グゲー 」
啓太は 枕元に有った タオルを洗う洗面器に 吐き戻した
洗面器の中には 未消化のお弁当と共に
      バナナが丸々一本分も有ろうかと思える
           白地に黄色がかったプヨプヨした物が 吐き戻されていた
「 啓太、大丈夫やで お腹の中の悪い物が ぜ~んぶ出たさけ 」
母は 啓太の背中を何度も摩りながら「 よう 頑張ったな 偉い、偉い 」
実は 今回の騒動を引き起こした原因は 啓太に有った
運動会の約半月前の事に成るが
学校で 蟯虫検査が行われ クラスの中から啓太を含む数名に 虫下しの錠剤が配られ
水のみ場で 飲んで来るように言いつかったのだが
皆が 薬を飲み終え 続々と教室に戻る中 啓太だけが 何時までも薬を飲めずに居た
口の中に錠剤を 何度入れ直しても 飲み込めない状態を繰り返す内
涙はボロ、ボロ、落ちるし
    仕舞いには 溶け出した錠剤の苦さに耐えかね 吐き戻してしまった
とりあえず 水で顔洗い 正面を見据えると
  なんとも 今の啓太の動揺を表しているが如き ムンクのポスターが目に飛び込んできた
此の後 どうしょうかなんて 考えが纏らない内に 教室の引き戸を開けると
「 啓太、薬は飲んできたのか? 」
「 はぃ・・・ 」咄嗟に 啓太は嘘をついてしまう
今回 啓太が吐き戻した物は 蟯虫では無く回虫であったが
                 大きく成れば 腸を食い破るという話もある
此の時の 両親の心配たるや 推し量るに余りある 出来事で有ったに違いない

 

 

 

 

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