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2012年6月10日の1件の投稿

啓太の一日 ( 自転車 )

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「 うわー これ僕の ? 」
「 そうやで~ お父ちゃんが 仕事先の人から譲ってもろたんや 」
啓太は 目を輝かせ 玄関先に置かれた 子供用自転車を 繁々と眺めた
我が家には 母ちゃんが乗る 大人用の実用車が在るが
啓太が サドルに乗っても 扱ぐ事さえ出来ない為
       もっぱら自転車の上でペダルを蹴って 遊ぶ位の物である
正直、父ちゃんの貰って来た 自転車は 前輪の泥除けが無かったり
ハンドルも赤くサビていて お世辞にも綺麗な物ではなかったが
啓太にとっては この上ない贈り物で 其の喜び様は 母の笑顔を誘った
・・・
「 勇作兄ちゃん~ 」
「 啓太、如何したんや、それっ、」
「 うん、父ちゃんが 僕の為に貰って来たんや 」
「 ふ~ん、そうか~、いい物貰ったな 」
「 うん 」
「 ところで啓太は 自転車に乗れるんか? 」
「 乗れんから 勇作兄ちゃんに 教えて貰おうと思って・・ 」
「 判った それやったら 先ず お地蔵さんの所の坂で 練習しようか 」
「 うん 」
・・・
坂道に着くと
「 啓太、兄ちゃんが 後ろを持っててやるから
       サドルに乗ったら ペダルを扱がずに
            ハンドルを持ったまま 坂を下りるんやで 」
「 う、うん 」
「 じゃあ 手を離すぞ~ 」
勇作が手を離すと 自転車は 啓太の思っていた以上に走り出した
シャーッ、バタ、バタ、バタ、ガシャーン、
啓太は 慣れないスピード感に 思わず地面に足を下ろし 止め様とするが
其の拍子に バランスを崩し 数メートルも行かない内に 自転車をこかしてしまう
「 啓太、大丈夫か~? 」「 うん、大丈夫や 」
「 ブレーキが 有るんやから 怖かったら 此れで遅くすればええんや 」
「 うん、判った 」
「 じゃあ、もう一度、ええか~ 行くぞ~ 」
「 いいよ~ 」
シュー サーッ
自転車は軽快に 啓太を乗せて 坂を下りだした
「 あ~っ すごい、すごい、あはははっ 」
シャーッ サーッ
今度は 自転車のバランスを上手く取って 坂を下ってゆく
「 アァ~ッ 」
しかしながら 惰性で降りているだけで
           ハンドルは握り締めてるのが 精一杯と言った所であった
「 あっ、あっ、そっちに行ったらあかん 」
ガタン、バシャッ、
啓太は ブレーキを掛ける 余裕さえなく
        自転車の赴くまま 田んぼの中へと突っ込んで行った
坂の上から勇作が声を掛ける「 啓太、大丈夫かー 」
バシャ、ベチャ、ベチャ
「 大丈夫やない、うえ~っ ドロドロやっ 」
「 怪我さえしなんだら そんで ええ 」
「 勇作兄ちゃん、田んぼの泥で 出られへんよ~ 」
「 困った奴ちゃな~ 」「 ほら、手出して 」
「 うん 」グチャッ、ズルッ、バシャ、
啓太の手を引こうとして 勇作も又 田んぼの中に落ちてしまった
「 ペッ、ベッ 」 バシャ、ベチャ、ベチャ
「 畔が崩れてしも~た 」
バシャ、ベチャ、ベチャ、バシャ、ベチャ、ベチャ
「 もう、こうなったら自棄やっ 」
ズチャ、バシャ、ベチャ、ズチャ
勇作は 泥だらけに成りながら 啓太と自転車を畔に上げると
「 少し待ってろ 啓太! 」
ベチャ、ズチャ、ズチャ
要約 畔に上がってきた勇作は「 啓太、着いて来い 」
「 勇作兄ちゃん、何処へ行くんや? 」
「 川で 泥を落とさな このままじゃ帰れん 」
なるほど勇作の言う通り 二人とも 全身泥まみれに成っていた
勇作の言う 川とは 道を隔てた向こう側に有る 農業用水の事である
バシャーン、バシャ、バシャ、バシャ、
勇作は 自転車を川の中に転がし入れると 自らも川の中に飛び込み
「 ブァッ、啓太も さっさと泥を落とせ 」
「 う、ぅん 」
バシャ、バシャ、
初夏とはいえ 山から流れ来る水は冷たかった
それでも 川の水嵩は
啓太の膝半分ほどしかない為 流されるといった心配は無いのだが
啓太は 恐る恐る川に入り ゆっくりと腰を落とすと
まるで お風呂で身体を洗うように 泥を流してゆく
「 啓太、どうせ頭の泥を落とすんやから 川ん中に寝そべっちまえよ 」
「 うん 」
バシャ、
やや遠慮気味に 川の中に身を横たえると 少しばかり身体が流された
「 ブシャ、ブブブ 」
一度浸かってしまえば 何の事は無い 此れは此れで けっこう楽しかった
バシャ、バシャ、バシャ、バシャ、
何を思ったか 勇作が 自転車を引き起こし 川の中を扱ぎ出した
バシャ、バシャ、ジャ、ジャ、ジャ、
「 啓太、面白いし 自転車も洗えるから 一石二鳥じゃわ 」
バシャ、バシャ、バシャ、バシャ、
啓太は 急いで体中の泥を 洗い流すと「 勇作兄ちゃん 待って~な 」
「 啓太、俺に追い着けるか~ 」
勇作は 啓太に追い着かれまいと どんどん 川の深みに入ってゆく
「 勇作兄ちゃん 帰って来て~な 」
啓太は 水が膝の辺りに来ると それ以上は進めなくなった
前方に見える 川底は 蒼く、深く、吸い込まれそうな恐怖を感じたからだ
「 兄ちゃん、も~っ 帰って来て~な 」と ベソを掻く
「 判った、判った 」
勇作は 川の中で自転車の向きを変えると 要約 こちらに向かって扱ぎ出し
程無く 啓太の横に自転車を乗り付けると
「 啓太、どゃ、綺麗に成ったろう 」
「 うん 」
「 啓太、この後 未だ自転車の練習をするか? 如何する? 」
「 う~ん、家に帰って 着替えてからでも ええか? 」
「 判った そんなら
     家まで 兄ちゃんが自転車を押して行ったるから
               啓太は 家に着くまで自転車に跨っておくんやで 」
「 うん 」
カタ、カタ、カタ、シャーッ、シャーッ、
「 あはっ、早い、早い、勇作兄ちゃん もっと、もっと 」
「 よっしゃ~ 」
勇作は 自転車を思い切り押すと そのまま手を離した
啓太は そんな事とは 露知らず 自転車に跨ったまま 軽快に走っている
「 啓太、ブレーキ、」
キィー キィーッ
勇作の言葉通り ブレーキを掛けて 振り向くと
           やや離れた所から 勇作が走ってくるのが見えた
「 あれ? 」
「 ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、」
「 勇作兄ちゃん、何時 手を離したんや? 」
「 啓太、もう十分 バランスは取れるみたいやな~ 」
ガシャーン!
啓太は 勇作が自転車を支えていない事に気付くと
          忽ちバランスを崩し 自転車を倒してしまう
「 なんや、せっかく褒めてやってんのに・・ 」
「 しょうが無い 着替えたら 今度はお寺の境内で練習するか 」
「 うん 」
「 俺も 着替えてくるから 後でなぁ~ 」
・・・
ガラガラガラ
「 母ちゃ~ん 」
タッタッタッタッ「 なんや、啓太 」
「 田んぼに 填ってしも~た 」
「 あれまぁ 濡れ鼠やなぁ~ 」
「 今、着替え出すさかい お風呂場で服を脱いどいで 」
「 うん 」
・・・
要約 着替えを済ませ 表に出ると 勇作が自転車に向って座り込んでいた
「 勇作兄ちゃん 何してるんや? 」
「 啓太 着替えてきたんか
        今、自転車に油を差してるから 暫く待ってろ 」
カラカラカラカラ キィーッ シャー シャー
勇作は ペダルを手で回しながら チェーン廻りに油を差すと
「 よし! 出来た! 」
「 啓太 今度は お寺の境内で練習や 」
「 勇作兄ちゃん もう 乗ってええんか? 」
「 おう、油を差したさけ よう走るでえ~ 」
「 お寺までは 兄ちゃんが 押してやるから
          お寺に着いたら 今度は自分で扱ぐ練習や 」
「 うん 判った 」
・・・
お寺に着くと
「 啓太 後ろで支えているから ペダルを扱いでみろ 」
「 うん 」「 よいしょ 」
カタカタ ズサー ガチャーン
啓太は ペダルに足を掛け 前に踏み込むと
自転車が動き出すと共に 踏み込んだ足の方向に大きく傾き 倒れ込んでしまった
「 勇作兄ちゃん 自転車、持ってるって 言ったのにぃ~ 」
「 すまん、すまん、もう乗れそうやと 思ったから 」
「 啓太は 踏み込む時にバランスが取れないみたいやから
          今度は 俺が押してる間 ペダルに足を付けて
                        扱ぐ練習から始めようか 」
「 じゃあ 押すからなっ 」「 うん 」
シャー ザッ シャー ザッザッ
「 啓太 後ろでずっと持っててやるから
          扱ぎながら 好きな方に曲がってええからな~ 」
「 う、うん 」
シャー シャー ザッ ザッ
ペダルは軽く 啓太は調子に乗って スピードを上げた
「 啓太、ブレーキ! 」キィー キィーッ ドン、
啓太はブレーキを掛けたが 自転車は松の木に正面からぶつかって 要約 止まった
「 あはははっ 」
「 こけなんだから よかったけど 調子に乗るんや無い 」
「 うん、ふふふっふ 」
「 じゃあ もう一度 行くで 」「 うん 」
シャー シャー 
啓太が 円を描くように 自転車を扱ぐと
「 あれ? 勇作兄ちゃん? 」
勇作の姿が 正面に見える
「 啓太、うまいもんや 」
「 えっ、えっ 」
「 もう 一人で自転車に乗れるやんか 」
啓太はその後 何回か倒れては起きを 繰り返すうちに
              いつの間にか 松の木を縫って走るまでに上達した 

 

 

 

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